年度別インデックス

外部有識者と学長との対談


岩手大学が何によって覚えられたい大学になるか?(高橋氏)

〇岩渕学長  岩手大学は地域連携ですということを共通認識として持つということがすごく重要だと考えています。組織的には「いわて未来づくり機構」を中心にして、個人的には岩手ネットワークシステム(INS)などの産学官連携組織を中心に、みんなが地域とかかわりを持った考え方をしていくということが、そのベースになるのかなと思っています。もう一つ、キーワードは、グローカル。これは、地域に根差すと言っても地域だけではなくて、世界も相手にしていますよという意味で表現しています。グローバルとローカルでグローカル。そういう意味で、頑張っていきたいと思っています。
〇神田氏  ありがとうございます。続いて、高橋会長に伺いたいと思うのですが、岩手経済同友会の代表幹事もお務めになっていらして、岩手大学の経営協議会の外部委員もされているということで、そういったお立場から日々岩手大学についてお感じになっていることを教えてください。
〇高橋氏  今、岩渕学長から、学長がかわってもそんなに急激に大学そのものが変化していくということはないというお話がありましたが、私はそうではなくて、岩手大学が急激に変わることを期待しています。特に私は、存在感のある大学というふうに、学長もお話しされていますけれども、岩手大学の存在感って何なのかということを突き詰めて考えたときに、非常に印象的な文章があって、これはドラッカーがある本の中に書いているのですけれども、何によって覚えられたいかということです。大筋をお話しすると、「私が13歳のときに宗教のすばらしい先生がいた。教室の中を歩きながら「何によって覚えられたいかね」と聞いた。誰も答えられなかった。先生は笑いながらこう言った。「今答えられるとは思わない。でも、50歳になっても答えられなければ人生を無駄にしたことになるよ」という話をして、その後長い年月がたって私たちは60年ぶりの同窓会を開いた。ほとんど健在だった。余りに久しぶりのことだったために、初めのうちは会話もぎこちなかった。すると1人が、「フリーグラー牧師の質問のことを覚えているか」と言った。皆覚えていた。そして、皆40代になるまで意味がわからなかったが、その後この質問のおかげで人生が変わったと言った。今でも私はこの何によって覚えられたいかをみずからに問い続けている。これは、みずからの成長を促す問いである。なぜならばみずからを異なる人物、そうなり得る人物として見るように仕向けられるからである。運のよい人は、フリーグラー牧師のような導き手によって、この問いを人生の早い時期に問いかけてもらいたい。一生続いてみずからに問い続けていくことができる」と、こういうふうなことを言っています。私は、まさに岩手大学が何によって覚えられたい大学になるのかということを常に問い続けてほしいなというふうに思っています。それがまさに存在感ということだろうと思います。
 それで、最近の例でいくと、山形大学が有機エレクトロニクスとか、信州大学がカーボンナノチューブとか、名古屋大学がガリウムナイトライドの研究などで、非常に大学がそういう一分野において名をなすということが大学全体を活気づけるということになっているわけです。ですから、先ほどのドラッカーの言葉を変えて言うのであれば、やはり最優先すべきは卓越性の追求、大学における何が卓越性なのか、それが存在感なのだということで、これがはっきりしてくると大学のあり方というものが充実するし、それから存在感も自信も生まれてくるというふうに思うわけです。ですから、私はそれをとにかく追求していってほしいということが1つです。
 それから、私なりにどういうふうな大学が岩手大学としてふさわしい存在感なのかということを考えると、やはり岩手大学の設立のときからの、要するに盛岡高等農林学校のときからの流れである農学部、ここを今まで以上に強化をしていくべきだと。今よく地方創生ということが言われているわけですけれども、この地方創生の中で、岩手がこれからほかの地域に伍してというか、さらに先端として進んでいく一つの方向性として、私は1次産業であるというふうに考えていまして、それに大いに貢献できるのは岩手大学の農学部だと。ですから、岩手大学の農学部の機能をもっともっと充実をさせて、そしてまさに地域に貢献していく大学として成長していくべきだというふうに思っています。
 それから、もう一つが、先ほど来学長もお話しされていますけれども、産学官連携のさらなる推進強化。岩手大学は、私はこの分野での先駆的な役割を果たしてきているというふうに思っていますけれども、残念ながらほかの大学がどんどんこれに取り組んで、むしろ今では一部には劣後しているところがあるのではないかというふうに思っています。産学官連携の先端を走っていたと思っていたら、何かほかの大学の中に埋没してしまって、岩手大学の必ずしも強みになっていないような、そういう状況が今出ているのではないかなというふうにも考えています。そこで、もう一度原点に立ち返って、岩手大学の産学官連携のあり方、これをもう一度世に問う。そういうことを考えていただきたいなというふうに思っています。岩手大学、あるいは岩手県の場合は、先駆的にやっていたということもあって、いわて未来づくり機構とかで、そういった体制も整っていますから、そういうものを活用していくのもいいと思いますけれども、岩手大学として私はもっともっと新たな角度で、産学官連携について見直しをして、さらにそれを磨いてもらいたいというふうに考えております。
〇神田氏  ありがとうございました。すごく鋭いご意見でしたけれども、岩渕学長はいかがお考えですか。
〇岩渕学長  高橋会長がおっしゃった卓越性というのは、iPS細胞とか半導体とか有機ELとか、そういう得意な分野をつくるということだと思いますが、もう一度地域をベースにした研究、教育体制をきっちり整えていきましょうというのも一つの方向性かなと思っています。もっと戦略的に地域に根をおろすということだけでは足りないということでしょうか。
〇高橋氏   私は両方が必要なのだろうと思います。ただ、岩手大学として、先ほどお話しした農学部をもっともっと強化をして、そして本当に世界に冠たる学部にしていくというのは、やはり時間軸で考えると短期的なものでは実現というのは難しいと思います。それに比べると、スターを発掘して、そしてそれによってまず岩手大学のブランドを構築するということは比較的短期間でも可能性があるのではないかというふうに思います。したがって、時間軸の違いということはあるのですが、両方面から進めていくべきだろうと思います。
〇神田氏  ありがとうございます。もう一点お伺いしたいと思いますが、産学連携をもう一度再構築というか、しっかり考えてほしいとおっしゃっていました。岩手大学は、もともと工学部が中心になって産学連携をやってきましたけれども、これからはもっと学部問わず幅広くやっていただきたい、そういう部分もあるのでしょうか。
〇高橋氏   学部問わず幅広くということは、必ずしも得策ではないというふうに思っています。岩手大学の場合、産学官連携の中心は農学部と工学部、改組すれば理工学部になるのでしょうけれども、そこを中心にやっていくべきだというふうにはっきり私は思っています。ですから、産学官連携でも産学連携でもいいのですが、全体でということではなくて、やはり中心になるところが必要なのだと思います。
〇神田氏  そこに強みをある程度特化していくというようなことですね。
〇高橋氏  ええ。
〇神田氏  わかりました。それについてはいかがですか。
〇岩渕学長  そういう意味では、私は地域連携を今4つのステージに分けて考えています。1つは、大学の研究成果をどの様に技術移転するか。シーズ・オリエンテッドの場合、なかなか物になっていない現状があるように思います。そうであれば、JST(科学技術振興機構)の復興促進プログラムのように岩手の中小企業を含めて課題解決型でやるということ。
その次に考えたいことは、大学が研究シーズを地域に提供しようとしても、受け手に人材が不足しているということ。地元のものづくり企業には、大学を出ている人も少なければ、まして大学院を出ている人はほとんどいない。ですから、そこでいいものを受け入れるためには、受け入れるほうの人材もということで岩手大学に金型鋳造専攻をつくったわけです。具体的にうまくいったかというと、修了生の多くは大手の大企業に就職しているわけですが、それはそうだけど、地域で必要な人材は地域で一緒になってつくる。その次に、その人材をいかに定着させるかということ。これが今やっている問題です。今度の新しい地域連携というのは第4ステージかなと、もう第3ステージの延長で今のやり方をそのまま行ってもなかなか新しくないので、第4ステージの地域連携は、地域を先導するという表現を使っています。岩手大学はそのようなポテンシャルを持っているのかと言われると思うのですが、例えば男女共同参画の推進という職場環境でいうと、女性の教員も職員も働きながら安心して妊娠・出産を迎えられる環境をつくる。このようなことに岩手県で最初に取り組んだとすれば、それが地域に広がっていけば、地域をリードするというか地域を先導することになる。生涯学習にしても、今まではどちらかといえば市民講座的なものを中心に行ってきましたが、資格を出せるようなものに充実させていくということであれば、いろいろな学び直しの人たちが、小学生からお年寄りまでいろんな階層で、もう一度勉強してみたいとか。あるいはスポーツにしても、我々すごく自慢しているのですが、今春卒業した高橋英輝君が、競歩で日本記録を出して優勝しました。これはすごく大学にとってポテンシャルを上げたわけです。音楽でも、県内の愛好者で結成されている「岩手県民オーケストラ」の会員の半分ぐらいは本学の出身者とのことです。学校の音楽の先生という話だけではなくて、音楽の文化という意味でも卒業生が果たす役割って大きいわけです。ですから、研究開発の花火だけではなくて、生活を含めた意味で、大学がいろいろとリーダーとなれば、地域を先導することができるかなと。そういうことを全面的に文化、スポーツ、教育、産業など岩手大学が得意な分野で花火を打ち上げることで地域を先導するというイメージで、これからは地域連携の新しいステージですよと、地域連携担当理事の菅原先生にはそういう表現でお願いしています。
〇神田氏  ありがとうございます。
 では、続きまして岩手県の大平部長に伺いたいと思います。大平さんは、いわて未来づくり機構の設立にかかわっていらっしゃいますし、国際リニアコライダー(ILC)の誘致など、産学官連携でも皆さんと一緒に活動をされています。そういったお立場から、今、岩手大学の強みの話もかなり出ていましたけれども、ふだん岩手大学について感じていらっしゃることをまず教えていただけますか。