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外部有識者と学長との対談


地域にいかに貢献していくか、地域と一緒にやっていくか(大平氏)

〇大平氏  岩渕先生とのお付き合いは、岩手大学に地域共同研究センターが作られた頃からになりますので、もう二十数年になります。私が、岩手県商工労働部工業課で産学官連携の県の窓口をしていた時からです。当時は、従来の企業誘致と地場産業育成を柱とした工業振興策に加えて、独自性のある研究開発の推進や技術力・研究開発力を持ったベンチャー企業の育成・集積を進めることが工業振興のために必要と考え、大学等との共同研究に力を入れようと考えていました。岩手大学でも、地方国立大学の中で1番を目指すため、共同研究の件数で山口大学に負けるなとか、追い越せとか、年間200件を目標にしようと取り組んでいました。もう一方では、先ほどから話が出ていますけれども、森邦夫先生のトリアジンチオールや、岩渕先生のトライボロジー(摩擦学)や金型、堀江皓先生の鋳物など、大型の研究費が幾つか採択され、産業化を展望できる技術シーズを実用化できるレベルまで磨き上げていくということを一緒に作っていました。なぜ岩手県がそれをやっていたかというと、もちろんINSのベースもありますが、取り組みやすいという点がありました。当時はまだ岩手県立大学がありませんから、岩手大学は、県内唯一の国公立大学で、工学部があるのは岩手大学しかないわけです。ですから、首都圏などの他の県のように、どうして一つの大学とばかり取り組むのとか、他にも大学は多くあるのではないかとか、そういったことがないわけです。岩手県には岩手大学しかない。人材の輩出においても、工学部はもちろん、教育学部も、農学部も、人文社会科学部も、岩手大学の歴史の中でどんどん輩出している。そうなると、県からすれば、研究開発で頼るべき、力を入れるべきところは岩手大学で、岩手大学と共同研究をやりましょうとなる。もちろん技術移転は、県の工業技術センターなどが担うのですが、そこをうまくできれば産業化までいくという考えでした。私は、たまたまそういうポジションにいましたのでINSにも入っていましたし、まずシーズ発掘をして、良い研究には、夢県土いわて戦略的研究開発事業で県費を出し、国の大型プロジェクトも取るという流れでやってきたわけです。その時はまだ国立大学が法人化されていませんから、地方大学でも先頭を走ることが出来たというのはそういうところに理由があったと思います。国立大学が法人化されてからは、先ほどから話が出ていますように、他の大学も全部同じ方向というか、産学官連携に力を入れ出した。そのような中で追い付かれたというか、岩手が先行するところがなくなってきているのだと思います。
 しかし、このような歴史の中で岩手大学の強みとして、地域の中でやっていくという方向性は間違っていません。岩手大学というか、地方国立大学が生き残るためには、地方にいかに貢献していくか、地域と一緒にやっていくかというところが大事だと思います。
 ただ、やはり研究開発の難しさというものはあります。10年、20年かけてうまくいく場合もあるし、なかなかうまくいかない場合もある。どういうニーズにどう対応していくか、先生方のやりたい研究と地元のニーズの違いもある。例えば水産でも、多く採るにはどういう漁法が良いかというニーズがあったとしても、それは今の研究シーズにはない。それでは養殖といってもすぐできるわけではない。地域のニーズと先生方の研究のニーズをどの様に組み合わせるのかが非常に難しいと思います。
〇岩渕学長  何年か前の話になりますが、二戸地区で葉たばこの生産が農業収入として非常に高いウエートを占めているのに、立枯れ病が流行して困っていると聞きました。以前はその北限が県南部であったものが、温暖化の影響なのか県北部まで拡がって来ているようなので相談にのって欲しいというものでした。以前は、専売公社がいろいろ作付けから病気の管理まで全て指導してくれていたそうです。JTになって、まして盛岡に工場もなくなって、指導してくれるところがないというのです。そのことを農学部の先生に話したら、葉たばこの研究をしている先生はいませんというか、社会が、産業の問題と社会の問題というか、健康に害があるものを積極的に研究する先生はいないというような。そのようなギャップが一つあると思います。
 もう一つは、東日本大震災後、最初に釜石市で「全国水産系研究者フォーラム」を開催したときの話になりますが、水産学というバイオ系の学問は過去10年、20年ですごく進展しました。しかし、研究が進展したのにもかかわらず、水産業はどんどん衰退してきた。つまり農学にしても、水産学にしても、工学にしても、現場というか、実践的な学部というところがだんだん科学者的になってきて、自分のアプリケーションがそういう産業と直に結びつかなくても問題と思わないというか。
〇大平氏  そういうことですね。
〇岩渕学長  社会は水産業とか農業とか工業に大学がどのように貢献しているかということを期待している。先生方の意識と地域の意識のギャップというものが結構強いと思います。岩手県漁連の大井会長と話をしたときにも、農業はJAで、漁業は漁連。そこが全てアレンジしてくれて、今までは特に考えなくてもよかった。今後、6次産業化を推進するためには、ある意味で自分たちがマーケティングのにおいをかぐというか、正確にやらなくても、そういうベクトルを持たないといけない。そこに大学がどう入れるかといったときに、大井会長には、「50代、60代の社長は難しいかもしれないが、40代以下の若い2代目とか3代目の社長は、本当に危機感を持っています。その方々に、いかにエンカレッジしてもらうかが大学の役割ではないですか。そこには期待しています。」と言われました。やはり世代によって意識が変わってくるから、大学がもっと一緒にやれるところがあるのではないかと、我々自身が期待をしています。
〇神田氏  例えば地域に軸足を置くということを皆さんで共有されたときに、先ほどの大平さんの話でも、地域の必要なニーズと先生方のやりたい研究がなかなかマッチングしない。だけれども、先生方のほうが地域に入っていくというか、そういうこともこれからはかなり必要になっていくのでしょうか。
〇岩渕学長  そう思います。先生方が、自分の研究成果を技術移転できて、社会に貢献したという実感のほうが、論文1個書いてというよりはよっぽど社会に貢献していると思うことも大事というか。自分の研究が100年後に化けるかもしれないと先生方は言うかもしれませんが、そこを期待するほど我々には時間的余裕はないのかも知れません。
〇神田氏  例えば高橋会長、今のようなお話、大学の先生方がもうちょっと地域のニーズに合わせて、先生のニーズに地域が合わせるのではなくて、そういうやり方、やはりそうなっていってほしいですか。
〇高橋氏  銀行もよく敷居が高いという表現されることがあるわけですが、いろいろな経営者の方から話を聞いていると、まだ岩手大学の敷居が高いと言うわけです。私は、決してそういうことはないのだろうと思いますけれども、やはり銀行と同じようにまだまだそういうふうな感じをお持ちの方がいらっしゃるわけです。ですから、本来的にはやはり志のある経営者であれば、どんなさまざまな困難があっても大学の門をたたいて、そして自分の商売のために何らかのことを引き出す。そういうふうなことをやっていくべきだというふうに思いますけれども、何せ岩手の人は奥ゆかしいので、そこまでやらない。となると、そういう経営者のマインドも変えていくということは大事なことだけれども、一方において大学側から民間のほうに積極的にアプローチしていく。こういう相互の流れをもっともっと強めていかなければいけない。どっちが先だとか、どっちが後だかというような不毛な議論よりも、私はそれぞれがやれることをまず積極的にやっていこうやというふうに考えたほうが効果は大きいのだろうというふうに思います。
〇神田氏  地域との敷居というのは、例えば産学官連携を進めるときに、地域共同研究センターをつくられて、そこがリエゾン(橋渡し)の役割果たしてきましたけれども、これからもそういうところが中心になってやるような形なのでしょうか。
〇岩渕学長  今までは地域連携推進センターが共同研究から生涯学習までワンストップサービスという形でやってきましたが、今回、研究推進機構と地域連携推進機構という二つの組織に分けました。今までどおり、お互いに連携してワンストップサービスが続くとばかり思っていましたが、組織を別にすると縦割りになってしまいました。我々は研究推進機構で、何で地域の仕事ですかとか、お互いの情報が共有されないわけです。もう一回ワンストップというところをプラットフォーム化というか、そこは努力していかなきゃいけないかなと思っています。
〇神田氏  そこのつなぎ役としての県の役割というか、何かお感じになっていることはありますか。
〇大平氏  県内にコーディネーターが40人程度いるのですが、自分の担当分野しか分からないという面があるようです。あの先生が何の研究をしているか分かるかと聞いても分からない。以前、文部科学省の研究開発促進拠点支援(RSP)事業をしていた時には、産学官連携コーディネーターが色々な研究室を訪問して情報を集めていました。やはりそういうことが必要だと思いますし、逆に言えば大学にも御用聞きのようにニーズを聞くような活動もしてほしいと思います。今回の復興支援に当たっては、多くの学生たちが地域に出て活動をしているわけですから、やはり先生方も一緒に地域に出て、自分の研究分野だけでもいいので、企業を回ることを自分で義務付けたり、あるいはコーディネーターと一緒に回ったりする機会を増やしてほしいと思います。一方、県にはいろいろな組織に所属しているコーディネーターがいますので、その組織の目的のために活動することが基本だとは思いますが、こういうことで困っている企業があるよという情報があったら、あのコーディネーターがその分野に詳しいというように、役割分担というか、情報を共有できるようなやり方を強化したいと考えています。
〇岩渕学長  INSの先生方も地域にも出て行って頑張っているのですが、若い世代の第3世代と言えばいいのかな、それが目立たないというか。
〇大平氏  それは、まさに地域の活動にしても同じことが言えます。親が一生懸命頑張っていると、いつまでも後継者というか、次の世代が育たない。今、水産業では、「ワカメ王子」とか、「イカ王子」と言われるように、若い人たちが活躍しています。(ものづくり企業の若手女性経営者で構成された)「モノづくりなでしこ」の人たちも。そういう30代、40代の次の経営者になる人たちと、次のリーダーになる人たちをいかに引っ張り上げていくか、社会に出すかが重要。大学の中でも、助教の先生たち、准教授の先生たちが社会に積極的に出られるような場を作らないと、次の世代は育たないと思います。
〇岩渕学長  やはり人材育成というのは、本当に重要だと思います。この間、人材の「ザイ」が材料の材だから良くないというコメントをある人からもらいました。人を育てるということはいいのだけれども、人材という言い方は上から目線の言い方だと。ですから、彼らは物ではないと。
〇高橋氏  漢字では、財産の「財」を当てればいいのでしょうけどもね。