年度別インデックス

外部有識者と学長との対談


人命に関わるような重大な場面でリーダーが適切に判断を下すための倫理基準や、若者の新分野挑戦への環境づくりなどに「学問」が力を発揮すべき

〇岩渕学長  例えば、今までの既得権みたいなものがあって、それを変えていかないと新しいシステムを構築できない。その時にリーダーはどう立ち振る舞うか。その辺が非常に大きなポイントかと思います。
〇本田氏  やはり人材ですよね。一つのジャッジを出せる、あるいは「行こう!」という一つの命令を発することの出来るリーダーということに尽きると思います。
 今だから話せますが、5年8ヶ月前の震災の時に仮設住宅が次々に建っていった。しかし、通院なり通学なり買い物に不便だということで、なかなか被災者は仮設住宅に入らなかった。一方で、ボランティアの方々が「遠野市から被災地に通うよりも現地の仮設に入って、より被災者の方に寄り添ったほうがいい。仮設に入らせてくれ」と言ったわけです。「ああ、入るべきだ」と私は答えたわけですよ。すると、「仮設住宅は災害救助法によって、災害で住宅を失った方が入る住宅であります。よって入れるわけにいきません」。国交省が建てたけれども入居を許可するのは厚労省の管轄だと言う。厚労省に聞いたら「やはり駄目です。目的外使用です。」という答えが返ってきた。厚労省に再度「どういうことですか」と言ったら「聞かれるとそう言わざるをえない。黙ってやって下さい」と(笑い)。黙ってやって下さいということは、そこのそれなりの人が判断すれば出来るわけです。それがなかなか・・、まさに意識の壁であり制度の壁であり、だから空き家がいっぱいできてしまった。
〇岩渕学長  啖呵をきる度胸があれば大丈夫なんですね。「必要な物はこれだ。俺が決める!」と。決定というのはとても重いですよね。学長やっていて、つくづく思います。でも「責任は俺が取るから、やれ!」というリーダーがいるのといないのとで全然対応が違ってくるというか、スピード感が違うと思います。
〇本田氏  そうですね。全国で多発している自然災害。8月30日の台風10号。私の所も間一髪、危機一髪だったのですが、被災された自治体ではあの雨風の中で、あれだけの山の中で避難準備、避難勧告、避難指示を首長が出すような定めになっていますが、難しい判断だったと思います。
〇岩渕学長  今、法律の話が出てきましたが、僕らが最初に陸前高田市に行って戸羽市長と話をしたときに、東日本大震災のような大規模な災害時に市職員が公務員としてどのレベルまで業務を遂行すれば良いかというものでした。その限界点を学問的に解釈するとどうなるかというものでした。公務員は市民のために働くもの。一方、自分の命も守らなければいけない。緊急非常事態とか超法規で動かざるを得ない場合、どこまで許されて、どこからはNGかという限界は、やりながら判断せざるを得ない。
〇本田氏  やりながらですね。
〇岩渕学長  何が言いたいかというと、そういう現場の問題を学問的にどう展開していくかというのは、今度は我々の仕事になってくる。だからそこを来年度設置する地域創生専攻の社会科学系の先生方がきちっと理解していくことで次のステップに繋がっていく。例えば次に南海トラフで大規模地震が起きた時にも、自治体の長の人達が、事前に我々が発信する情報を受け止めてもらえれば緊急時にもうろたえることなく仕事が出来るのかなと思う。それが法律までいくかどうかは別として、そういうことが問われているんだろうなと思います。
 だから、今までの学問を教えるだけではなくてフィールドからどう学んでいくかということ。「産」が学問の道場だといったことを我々も理解しながら突き詰める。我々は学問を教える所が大学だというようなことを気持ちの中に持っていたわけです。だけど、もっと実践を通して新しい物やシステムを構築していかなければいけないと思います。
〇本田氏  まさに実践ですね。
〇岩渕学長  実践を通して、そこで考えていくプロセスが地方創生に置ける大学の役割かなと。産業界から日本の産学連携はなかなか成果が見えないと言われます。政府のお金を300億円投資してもなかなか事業化が見えない。「何で見えないの?」と言うと、先生方はやはり100点を目指すわけです。だから5年間のプロジェクトの中で8合目まで登らなければならない。80点くらいまでは出しますが最後のツメである事業化のところでは、金の切れ目が縁の切れ目でそこで終わってしまう。また次の山を登り始める。で、また8合目で終わってしまう。だから100点を目指すのではなく80点でも事業化なり、実用化に行くようにする。100点を目指さなくてもいい。そういう所の判断はすごく難しい。
 学の立場で頂点まで上り詰めるべきことと、「80点でも良いから我が社で事業化する」という産業界、そのあたりに研究者との掛け違いのようなことがある。坂本課長からもコメントいただけないでしょうか。
〇坂本氏  今の岩渕学長のお話だと政策的な見解を捉えていると思うのですが、その前の本田市長と岩渕学長の、特に災害などでリーダーが判断する時という話がありました。その際に「学」がどういう役割を果たすべきかという話題も挙がりました。
 以前、NHKで見たハーバード大学のサンデル教授の「白熱授業」で、「正義とは何かを議論しよう」という回がありました。アフガニスタンに米軍が入っていった時に、アフガニスタンの住民に遭遇する。米軍の彼は隠密行動をしているわけですが、その時にたまたまその住民を助けた。助けた住民をどうするかで葛藤があったけれど、結局住民を逃がした。その後逃がした住民が通報して米軍が襲撃されてしまった。米軍の彼はどうすべきだったかということを、ハーバード大学で議論するわけです。
 正義とか倫理とか人間のあるべき姿はどうあるべきか。こういうことこそ学問が説くべきだというのは、今まさに世界中で議論されている大学のあり方が問われている所です。
  リーダーが、本当に人命がかかっているような重い判断をする時、どういう情報で何を基準に判断したらいいか、そういう所も学問の大きな役割だと思います。もし、今、不十分な仕組みしかなければ、それをどういうふうにすれば改善され、より良い意志決定ができるか。これを構想するのは多分大学が自治体なり産業界と一緒にやるべきことだと思います。そういったリーダーの社会的意志決定をどのようにより良いものにするかということ。また、若者が新しい価値を作ろうとする時に、そのチャレンジをより良いものにするために、粗々の不十分な提案かも知れないけれども、その中の価値を認めてあげてエンカレッジする。また、欠点が見えているならそれを指摘してあげて、より良い提案に軌道修正する。これも多分チャレンジャーに対する学問が支援すべき所です。そういった所にもっと学問的知見、情報なのか蓄積された知識なのか、あるいは分析ツールなのか、発想のツールなのか。そういうものを我々文科省や大学は、もっと社会の中に持ち込むべきだろうなと思います。
そういうことをやろうと思うと、今、本田市長と岩渕学長がされているこういう会話の中で、一体自治体は何を求めていて、大学は何が出来そうでということを本音で議論して頂く。またリーダーの間で議論して頂く、それから現場の若い方々、市役所の若い方と大学の若い教員の方々あるいは学生さんが一緒になって議論して、提案を作ったり意志決定の仕組みを構想したり、いろいろな階層でコミュニケーションするということを是非やって頂きたいと思います。
〇本田氏  そうですね。私も現場の首長という立場ですが、やはり市町村議会もあり、選挙もあり、そのなかでやっているわけで、なかなかその壁を上手く越えられない。
 岩手大学と我々市町村が協定を結んで定期的に意見交換する場があります。そのような際に先生方、学生、首長も入る。さらに市町村の議会議員を巻き込む仕掛けがあればいいと思います。我々も、例えば岩手大学さんとこのような場でそれぞれの立場で意見を交換するというのはすごいことです。
 例えば議会で答弁などしてもなかなか協議出来ないこともあります。市町村という一つの単位のなかの市町村議員も変わろうともがいておりますから、そこに何か一つの楔を打つ。また市町村長も産学官そして金労言(事務局注:金融、労働、言論)ということであれば、その仕組みの中で、それぞれ地域の60点を70点80点に持っていくためにみんなで頑張りましょう、という環境を作る。「学」の立場でその役割を持ってもらえればと思います。