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外部有識者と学長との対談(H27.10.05)

外部有識者と学長との対談(※H27.10.05)

地方創生・震災からの復興と岩手大学

第3期中期目標期間における運営費交付金の重点支援の枠組みや、教員養成系及び人文社会科学系学部・大学院の廃止・転換といった方針が打ち出されている中、岩手大学の機能強化に向けた取組などを広く社会にアピールし理解増進を図るため、外部有識者と学長との対談を行いました。

開催日時: 2016年10月5日(月)15:00〜16:30
場所: 岩手大学
テーマ: 地方創生・震災からの復興と岩手大学
出席者: 株式会社岩手銀行取締役会長(代表取締役)高橋 真裕 様
岩手県政策地域部長 大平 尚 様
国立大学法人岩手大学学長 岩渕 明
聞き手: 株式会社岩手日報社報道部長 神田 由紀 様

出席者紹介

  • 高橋真裕

    高橋真裕

    株式会社岩手銀行取締役会長(代表取締役)

  • 大平尚

    大平尚

    岩手県政策地域部長

  • 岩渕明

    岩渕明

    国立大学法人岩手大学学長

  • 神田由紀

    神田由紀

    株式会社岩手日報社報道部長


外部有識者と学長との対談

神田氏

平成28年度から6年間の第3期中期目標期間における、岩手大学の機能強化に向けた取組、特に「地方創生・震災からの復興と岩手大学」をテーマに、日々皆さん岩手大学といろいろご関係がありますので、そういう中で日々感じていらっしゃることを率直にお話しいただければと思っておりますので、よろしくお願いします。

まず、岩渕学長から第3期中期目標期間における、岩手大学の目指す姿についてお話しください。

岩渕学長

平成27年3月に学長に就任して改めて岩手大学の特徴は何かを考えました。元学長の平山先生の時代にスタートした「岩手の"大地"と"ひと"と共に」という、地域連携を推進することが一つの柱ではないかと考えています。ですが、今まで地域連携が大学内のアイデンティティーというか、共通意識かというと、学内には「私たち研究者は世界を目指してやっているのにどうして地域なのだ、岩手なのだ。」という議論がありました。しかし、東日本大震災を契機に、地域に根差して三陸復興に向けた取組をしっかりやっていくことが非常に大学の存在感を上げることになることを再確認できました。大学の流れというのは、学長が代わったからドラスティックに変わるということではなく、脈々と受け継がれているものがあるのだと思います。岩手大学の歴史の中で何を継続して、ウエートをどこに置いていくかという話になると思うのですが、こういう時期に学長に就任して、やはり地域に軸足を置くということを再確認したわけです。

そういう中で、岩手大学の特徴をいうと、4学部、教職員と学生が6,000人の中規模総合大学でワンキャンパスであること。大きからず小さからずというところでしょうか。それから100年以上の歴史があり、あるいは盛岡という地理的なこと、交通の便とか、自然とか。先日、「色々な大学があるのに、どうして岩手大学を選んだの」と留学生に尋ねたら、「やはり四季のはっきりしたところのほうがいいということで盛岡を選びました。」と応えられました。私たちは盛岡に住んでいますので当然のように感じますが、盛岡の自然とか、気候とかというのも魅力になる。岩手大学という特徴を改めてみんなで共有することで、大学の特徴をどう伸ばしていくかということを考えなければいけないと思っています。

その他には、学生と教職員が一体となって活動している環境マネジメントの取り組みは全国的にも高い評価を得ていますし、男女共同参画推進の取組とか全国的にもアクティビティーの高い特徴的なものもあります。更に言うと大学院工学研究科の金型鋳造専攻は日本で唯一の専攻ですし、国立大学で獣医学科があるのは全国でも8大学しかありません。このような日本でも特徴的な機能を更に強化したいと考えています。

機能強化という意味では、改組にもかかわるのですが、今までの4学部の学部間の垣根をどの様にしてなくすかです。例えば農学部と工学部の教員が三陸復興推進機構の取組の中で地域コミュニティーの再生に取り組んでいます。それぞれのアプローチは違っても、いいコミュニティーをつくっていくという目的は一緒ですから、人文社会科学部と教育学部を含め4学部が一緒に活動して、縦割りの学部単位ではなくてということで、地域創生の専攻をつくりたいと考えています。

全国的な話で言えば、文系とか教育学部の削減というのはどうしても避けられないことかもしれませんが、地域には地域の文系学部が一定数必要だと思います。東京の私立大学の文系を出た人が地域に戻ってくることもあるのでしょうが、やはり地域は地域で必要な人材を量と質をそろえて輩出しなければいけないと思います。

そのような意味でも、COC事業やCOCプラス事業では、学生の地域定着に向けて地域の皆さんと一緒に考えたいと思っています。少子高齢化の地域課題にしても、岩手県の大学進学率をどのようにして上げるかという課題にしても、その要因は経済的な問題も一つ絡んでいると思いますが、岩手がきちっと復興が出来て、地域の活性化がある程度上がっていくというところに大学がどう貢献できるかというのが第3期の大きい目標かなと考えています。

神田氏

ありがとうございます。地域に軸足を置かれるということですが、岩渕学長もずっと牽引されてきて、岩手大学は地域連携分野で国内でもリーダー的な存在というか、すごく力を入れてきて、そういう意味では地域に軸足を置くという素地がすごくしっかりできているのではないかと思いますけれども。

岩手大学が何によって覚えられたい大学になるか?

岩渕学長

岩手大学は地域連携ですということを共通認識として持つということがすごく重要だと考えています。組織的には「いわて未来づくり機構」を中心にして、個人的には岩手ネットワークシステム(INS)などの産学官連携組織を中心に、みんなが地域とかかわりを持った考え方をしていくということが、そのベースになるのかなと思っています。もう一つ、キーワードは、グローカル。これは、地域に根差すと言っても地域だけではなくて、世界も相手にしていますよという意味で表現しています。グローバルとローカルでグローカル。そういう意味で、頑張っていきたいと思っています。

神田氏

ありがとうございます。続いて、高橋会長に伺いたいと思うのですが、岩手経済同友会の代表幹事もお務めになっていらして、岩手大学の経営協議会の外部委員もされているということで、そういったお立場から日々岩手大学についてお感じになっていることを教えてください。

高橋氏

今、岩渕学長から、学長がかわってもそんなに急激に大学そのものが変化していくということはないというお話がありましたが、私はそうではなくて、岩手大学が急激に変わることを期待しています。特に私は、存在感のある大学というふうに、学長もお話しされていますけれども、岩手大学の存在感って何なのかということを突き詰めて考えたときに、非常に印象的な文章があって、これはドラッカーがある本の中に書いているのですけれども、何によって覚えられたいかということです。大筋をお話しすると、「私が13歳のときに宗教のすばらしい先生がいた。教室の中を歩きながら「何によって覚えられたいかね」と聞いた。誰も答えられなかった。先生は笑いながらこう言った。「今答えられるとは思わない。でも、50歳になっても答えられなければ人生を無駄にしたことになるよ」という話をして、その後長い年月がたって私たちは60年ぶりの同窓会を開いた。ほとんど健在だった。余りに久しぶりのことだったために、初めのうちは会話もぎこちなかった。すると1人が、「フリーグラー牧師の質問のことを覚えているか」と言った。皆覚えていた。そして、皆40代になるまで意味がわからなかったが、その後この質問のおかげで人生が変わったと言った。今でも私はこの何によって覚えられたいかをみずからに問い続けている。これは、みずからの成長を促す問いである。なぜならばみずからを異なる人物、そうなり得る人物として見るように仕向けられるからである。運のよい人は、フリーグラー牧師のような導き手によって、この問いを人生の早い時期に問いかけてもらいたい。一生続いてみずからに問い続けていくことができる」と、こういうふうなことを言っています。私は、まさに岩手大学が何によって覚えられたい大学になるのかということを常に問い続けてほしいなというふうに思っています。それがまさに存在感ということだろうと思います。

それで、最近の例でいくと、山形大学が有機エレクトロニクスとか、信州大学がカーボンナノチューブとか、名古屋大学がガリウムナイトライドの研究などで、非常に大学がそういう一分野において名をなすということが大学全体を活気づけるということになっているわけです。ですから、先ほどのドラッカーの言葉を変えて言うのであれば、やはり最優先すべきは卓越性の追求、大学における何が卓越性なのか、それが存在感なのだということで、これがはっきりしてくると大学のあり方というものが充実するし、それから存在感も自信も生まれてくるというふうに思うわけです。ですから、私はそれをとにかく追求していってほしいということが1つです。

それから、私なりにどういうふうな大学が岩手大学としてふさわしい存在感なのかということを考えると、やはり岩手大学の設立のときからの、要するに盛岡高等農林学校のときからの流れである農学部、ここを今まで以上に強化をしていくべきだと。今よく地方創生ということが言われているわけですけれども、この地方創生の中で、岩手がこれからほかの地域に伍してというか、さらに先端として進んでいく一つの方向性として、私は1次産業であるというふうに考えていまして、それに大いに貢献できるのは岩手大学の農学部だと。ですから、岩手大学の農学部の機能をもっともっと充実をさせて、そしてまさに地域に貢献していく大学として成長していくべきだというふうに思っています。

それから、もう一つが、先ほど来学長もお話しされていますけれども、産学官連携のさらなる推進強化。岩手大学は、私はこの分野での先駆的な役割を果たしてきているというふうに思っていますけれども、残念ながらほかの大学がどんどんこれに取り組んで、むしろ今では一部には劣後しているところがあるのではないかというふうに思っています。産学官連携の先端を走っていたと思っていたら、何かほかの大学の中に埋没してしまって、岩手大学の必ずしも強みになっていないような、そういう状況が今出ているのではないかなというふうにも考えています。そこで、もう一度原点に立ち返って、岩手大学の産学官連携のあり方、これをもう一度世に問う。そういうことを考えていただきたいなというふうに思っています。岩手大学、あるいは岩手県の場合は、先駆的にやっていたということもあって、いわて未来づくり機構とかで、そういった体制も整っていますから、そういうものを活用していくのもいいと思いますけれども、岩手大学として私はもっともっと新たな角度で、産学官連携について見直しをして、さらにそれを磨いてもらいたいというふうに考えております。

神田氏

ありがとうございました。すごく鋭いご意見でしたけれども、岩渕学長はいかがお考えですか。

岩渕学長

高橋会長がおっしゃった卓越性というのは、iPS細胞とか半導体とか有機ELとか、そういう得意な分野をつくるということだと思いますが、もう一度地域をベースにした研究、教育体制をきっちり整えていきましょうというのも一つの方向性かなと思っています。もっと戦略的に地域に根をおろすということだけでは足りないということでしょうか。

高橋氏

私は両方が必要なのだろうと思います。ただ、岩手大学として、先ほどお話しした農学部をもっともっと強化をして、そして本当に世界に冠たる学部にしていくというのは、やはり時間軸で考えると短期的なものでは実現というのは難しいと思います。それに比べると、スターを発掘して、そしてそれによってまず岩手大学のブランドを構築するということは比較的短期間でも可能性があるのではないかというふうに思います。したがって、時間軸の違いということはあるのですが、両方面から進めていくべきだろうと思います。

神田氏

ありがとうございます。もう一点お伺いしたいと思いますが、産学連携をもう一度再構築というか、しっかり考えてほしいとおっしゃっていました。岩手大学は、もともと工学部が中心になって産学連携をやってきましたけれども、これからはもっと学部問わず幅広くやっていただきたい、そういう部分もあるのでしょうか。

高橋氏

学部問わず幅広くということは、必ずしも得策ではないというふうに思っています。岩手大学の場合、産学官連携の中心は農学部と工学部、改組すれば理工学部になるのでしょうけれども、そこを中心にやっていくべきだというふうにはっきり私は思っています。ですから、産学官連携でも産学連携でもいいのですが、全体でということではなくて、やはり中心になるところが必要なのだと思います。

神田氏

そこに強みをある程度特化していくというようなことですね。

高橋氏

ええ。

神田氏

わかりました。それについてはいかがですか。

岩渕学長

そういう意味では、私は地域連携を今4つのステージに分けて考えています。1つは、大学の研究成果をどの様に技術移転するか。シーズ・オリエンテッドの場合、なかなか物になっていない現状があるように思います。そうであれば、JST(科学技術振興機構)の復興促進プログラムのように岩手の中小企業を含めて課題解決型でやるということ。

その次に考えたいことは、大学が研究シーズを地域に提供しようとしても、受け手に人材が不足しているということ。地元のものづくり企業には、大学を出ている人も少なければ、まして大学院を出ている人はほとんどいない。ですから、そこでいいものを受け入れるためには、受け入れるほうの人材もということで岩手大学に金型鋳造専攻をつくったわけです。具体的にうまくいったかというと、修了生の多くは大手の大企業に就職しているわけですが、それはそうだけど、地域で必要な人材は地域で一緒になってつくる。その次に、その人材をいかに定着させるかということ。これが今やっている問題です。今度の新しい地域連携というのは第4ステージかなと、もう第3ステージの延長で今のやり方をそのまま行ってもなかなか新しくないので、第4ステージの地域連携は、地域を先導するという表現を使っています。岩手大学はそのようなポテンシャルを持っているのかと言われると思うのですが、例えば男女共同参画の推進という職場環境でいうと、女性の教員も職員も働きながら安心して妊娠・出産を迎えられる環境をつくる。このようなことに岩手県で最初に取り組んだとすれば、それが地域に広がっていけば、地域をリードするというか地域を先導することになる。生涯学習にしても、今まではどちらかといえば市民講座的なものを中心に行ってきましたが、資格を出せるようなものに充実させていくということであれば、いろいろな学び直しの人たちが、小学生からお年寄りまでいろんな階層で、もう一度勉強してみたいとか。あるいはスポーツにしても、我々すごく自慢しているのですが、今春卒業した高橋英輝君が、競歩で日本記録を出して優勝しました。これはすごく大学にとってポテンシャルを上げたわけです。音楽でも、県内の愛好者で結成されている「岩手県民オーケストラ」の会員の半分ぐらいは本学の出身者とのことです。学校の音楽の先生という話だけではなくて、音楽の文化という意味でも卒業生が果たす役割って大きいわけです。ですから、研究開発の花火だけではなくて、生活を含めた意味で、大学がいろいろとリーダーとなれば、地域を先導することができるかなと。そういうことを全面的に文化、スポーツ、教育、産業など岩手大学が得意な分野で花火を打ち上げることで地域を先導するというイメージで、これからは地域連携の新しいステージですよと、地域連携担当理事の菅原先生にはそういう表現でお願いしています。

神田氏

ありがとうございます。

では、続きまして岩手県の大平部長に伺いたいと思います。大平さんは、いわて未来づくり機構の設立にかかわっていらっしゃいますし、国際リニアコライダー(ILC)の誘致など、産学官連携でも皆さんと一緒に活動をされています。そういったお立場から、今、岩手大学の強みの話もかなり出ていましたけれども、ふだん岩手大学について感じていらっしゃることをまず教えていただけますか。

外部有識者と学長との対談(※H27.10.05)

地域にいかに貢献していくか、地域と一緒にやっていくか

大平氏

岩渕先生とのお付き合いは、岩手大学に地域共同研究センターが作られた頃からになりますので、もう二十数年になります。私が、岩手県商工労働部工業課で産学官連携の県の窓口をしていた時からです。当時は、従来の企業誘致と地場産業育成を柱とした工業振興策に加えて、独自性のある研究開発の推進や技術力・研究開発力を持ったベンチャー企業の育成・集積を進めることが工業振興のために必要と考え、大学等との共同研究に力を入れようと考えていました。岩手大学でも、地方国立大学の中で1番を目指すため、共同研究の件数で山口大学に負けるなとか、追い越せとか、年間200件を目標にしようと取り組んでいました。もう一方では、先ほどから話が出ていますけれども、森邦夫先生のトリアジンチオールや、岩渕先生のトライボロジー(摩擦学)や金型、堀江皓先生の鋳物など、大型の研究費が幾つか採択され、産業化を展望できる技術シーズを実用化できるレベルまで磨き上げていくということを一緒に作っていました。なぜ岩手県がそれをやっていたかというと、もちろんINSのベースもありますが、取り組みやすいという点がありました。当時はまだ岩手県立大学がありませんから、岩手大学は、県内唯一の国公立大学で、工学部があるのは岩手大学しかないわけです。ですから、首都圏などの他の県のように、どうして一つの大学とばかり取り組むのとか、他にも大学は多くあるのではないかとか、そういったことがないわけです。岩手県には岩手大学しかない。人材の輩出においても、工学部はもちろん、教育学部も、農学部も、人文社会科学部も、岩手大学の歴史の中でどんどん輩出している。そうなると、県からすれば、研究開発で頼るべき、力を入れるべきところは岩手大学で、岩手大学と共同研究をやりましょうとなる。もちろん技術移転は、県の工業技術センターなどが担うのですが、そこをうまくできれば産業化までいくという考えでした。私は、たまたまそういうポジションにいましたのでINSにも入っていましたし、まずシーズ発掘をして、良い研究には、夢県土いわて戦略的研究開発事業で県費を出し、国の大型プロジェクトも取るという流れでやってきたわけです。その時はまだ国立大学が法人化されていませんから、地方大学でも先頭を走ることが出来たというのはそういうところに理由があったと思います。国立大学が法人化されてからは、先ほどから話が出ていますように、他の大学も全部同じ方向というか、産学官連携に力を入れ出した。そのような中で追い付かれたというか、岩手が先行するところがなくなってきているのだと思います。

しかし、このような歴史の中で岩手大学の強みとして、地域の中でやっていくという方向性は間違っていません。岩手大学というか、地方国立大学が生き残るためには、地方にいかに貢献していくか、地域と一緒にやっていくかというところが大事だと思います。

ただ、やはり研究開発の難しさというものはあります。10年、20年かけてうまくいく場合もあるし、なかなかうまくいかない場合もある。どういうニーズにどう対応していくか、先生方のやりたい研究と地元のニーズの違いもある。例えば水産でも、多く採るにはどういう漁法が良いかというニーズがあったとしても、それは今の研究シーズにはない。それでは養殖といってもすぐできるわけではない。地域のニーズと先生方の研究のニーズをどの様に組み合わせるのかが非常に難しいと思います。

岩渕学長

何年か前の話になりますが、二戸地区で葉たばこの生産が農業収入として非常に高いウエートを占めているのに、立枯れ病が流行して困っていると聞きました。以前はその北限が県南部であったものが、温暖化の影響なのか県北部まで拡がって来ているようなので相談にのって欲しいというものでした。以前は、専売公社がいろいろ作付けから病気の管理まで全て指導してくれていたそうです。JTになって、まして盛岡に工場もなくなって、指導してくれるところがないというのです。そのことを農学部の先生に話したら、葉たばこの研究をしている先生はいませんというか、社会が、産業の問題と社会の問題というか、健康に害があるものを積極的に研究する先生はいないというような。そのようなギャップが一つあると思います。

もう一つは、東日本大震災後、最初に釜石市で「全国水産系研究者フォーラム」を開催したときの話になりますが、水産学というバイオ系の学問は過去10年、20年ですごく進展しました。しかし、研究が進展したのにもかかわらず、水産業はどんどん衰退してきた。つまり農学にしても、水産学にしても、工学にしても、現場というか、実践的な学部というところがだんだん科学者的になってきて、自分のアプリケーションがそういう産業と直に結びつかなくても問題と思わないというか。

大平氏

そういうことですね。

岩渕学長

社会は水産業とか農業とか工業に大学がどのように貢献しているかということを期待している。先生方の意識と地域の意識のギャップというものが結構強いと思います。岩手県漁連の大井会長と話をしたときにも、農業はJAで、漁業は漁連。そこが全てアレンジしてくれて、今までは特に考えなくてもよかった。今後、6次産業化を推進するためには、ある意味で自分たちがマーケティングのにおいをかぐというか、正確にやらなくても、そういうベクトルを持たないといけない。そこに大学がどう入れるかといったときに、大井会長には、「50代、60代の社長は難しいかもしれないが、40代以下の若い2代目とか3代目の社長は、本当に危機感を持っています。その方々に、いかにエンカレッジしてもらうかが大学の役割ではないですか。そこには期待しています。」と言われました。やはり世代によって意識が変わってくるから、大学がもっと一緒にやれるところがあるのではないかと、我々自身が期待をしています。

神田氏

例えば地域に軸足を置くということを皆さんで共有されたときに、先ほどの大平さんの話でも、地域の必要なニーズと先生方のやりたい研究がなかなかマッチングしない。だけれども、先生方のほうが地域に入っていくというか、そういうこともこれからはかなり必要になっていくのでしょうか。

岩渕学長

そう思います。先生方が、自分の研究成果を技術移転できて、社会に貢献したという実感のほうが、論文1個書いてというよりはよっぽど社会に貢献していると思うことも大事というか。自分の研究が100年後に化けるかもしれないと先生方は言うかもしれませんが、そこを期待するほど我々には時間的余裕はないのかも知れません。

神田氏

例えば高橋会長、今のようなお話、大学の先生方がもうちょっと地域のニーズに合わせて、先生のニーズに地域が合わせるのではなくて、そういうやり方、やはりそうなっていってほしいですか。

高橋氏

銀行もよく敷居が高いという表現されることがあるわけですが、いろいろな経営者の方から話を聞いていると、まだ岩手大学の敷居が高いと言うわけです。私は、決してそういうことはないのだろうと思いますけれども、やはり銀行と同じようにまだまだそういうふうな感じをお持ちの方がいらっしゃるわけです。ですから、本来的にはやはり志のある経営者であれば、どんなさまざまな困難があっても大学の門をたたいて、そして自分の商売のために何らかのことを引き出す。そういうふうなことをやっていくべきだというふうに思いますけれども、何せ岩手の人は奥ゆかしいので、そこまでやらない。となると、そういう経営者のマインドも変えていくということは大事なことだけれども、一方において大学側から民間のほうに積極的にアプローチしていく。こういう相互の流れをもっともっと強めていかなければいけない。どっちが先だとか、どっちが後だかというような不毛な議論よりも、私はそれぞれがやれることをまず積極的にやっていこうやというふうに考えたほうが効果は大きいのだろうというふうに思います。

神田氏

地域との敷居というのは、例えば産学官連携を進めるときに、地域共同研究センターをつくられて、そこがリエゾン(橋渡し)の役割果たしてきましたけれども、これからもそういうところが中心になってやるような形なのでしょうか。

岩渕学長

今までは地域連携推進センターが共同研究から生涯学習までワンストップサービスという形でやってきましたが、今回、研究推進機構と地域連携推進機構という二つの組織に分けました。今までどおり、お互いに連携してワンストップサービスが続くとばかり思っていましたが、組織を別にすると縦割りになってしまいました。我々は研究推進機構で、何で地域の仕事ですかとか、お互いの情報が共有されないわけです。もう一回ワンストップというところをプラットフォーム化というか、そこは努力していかなきゃいけないかなと思っています。

神田氏

そこのつなぎ役としての県の役割というか、何かお感じになっていることはありますか。

大平氏

県内にコーディネーターが40人程度いるのですが、自分の担当分野しか分からないという面があるようです。あの先生が何の研究をしているか分かるかと聞いても分からない。以前、文部科学省の研究開発促進拠点支援(RSP)事業をしていた時には、産学官連携コーディネーターが色々な研究室を訪問して情報を集めていました。やはりそういうことが必要だと思いますし、逆に言えば大学にも御用聞きのようにニーズを聞くような活動もしてほしいと思います。今回の復興支援に当たっては、多くの学生たちが地域に出て活動をしているわけですから、やはり先生方も一緒に地域に出て、自分の研究分野だけでもいいので、企業を回ることを自分で義務付けたり、あるいはコーディネーターと一緒に回ったりする機会を増やしてほしいと思います。一方、県にはいろいろな組織に所属しているコーディネーターがいますので、その組織の目的のために活動することが基本だとは思いますが、こういうことで困っている企業があるよという情報があったら、あのコーディネーターがその分野に詳しいというように、役割分担というか、情報を共有できるようなやり方を強化したいと考えています。

岩渕学長

INSの先生方も地域にも出て行って頑張っているのですが、若い世代の第3世代と言えばいいのかな、それが目立たないというか。

大平氏

それは、まさに地域の活動にしても同じことが言えます。親が一生懸命頑張っていると、いつまでも後継者というか、次の世代が育たない。今、水産業では、「ワカメ王子」とか、「イカ王子」と言われるように、若い人たちが活躍しています。(ものづくり企業の若手女性経営者で構成された)「モノづくりなでしこ」の人たちも。そういう30代、40代の次の経営者になる人たちと、次のリーダーになる人たちをいかに引っ張り上げていくか、社会に出すかが重要。大学の中でも、助教の先生たち、准教授の先生たちが社会に積極的に出られるような場を作らないと、次の世代は育たないと思います。

岩渕学長

やはり人材育成というのは、本当に重要だと思います。この間、人材の「ザイ」が材料の材だから良くないというコメントをある人からもらいました。人を育てるということはいいのだけれども、人材という言い方は上から目線の言い方だと。ですから、彼らは物ではないと。

高橋氏

漢字では、財産の「財」を当てればいいのでしょうけどもね。

外部有識者と学長との対談(※H27.10.05)

新設する水産システム学コース、大学院の地域創生専攻設置計画の狙いとは?

神田氏

人材育成の話になりましたが、これから学部、大学院の改組で、先ほど高橋会長のほうからも農学部をしっかり強くしてほしいというお話しがありました。そういう中で今度農学部に水産システム学コースもつくりますし、あとは大学院に地域創生専攻をつくられる。少し狙いを教えていただけますか。

岩渕学長

地域創生専攻設置のきっかけは、やはり、東日本大震災ですね。今どちらかというと、先生方は研究志向で、学部も大学院のマスターもドクターも研究の深化と言っているから、地域創生をつくるというのはある意味で横を見る機会をきちっとつくってみたいなというか、つくらなきゃいけないという思いです。俯瞰力というか、総合力というか、そういうところでの役割というのを組織的にきちっとつくらなきゃいけないという。その中には当然グローバル的なものもあります。よそを見ることで自分のところを振り返られるから。高校生や若い人がアメリカへ行くとアメリカナイズされて帰ってくるだけで、日本のシステムは全否定になってしまうということを聞きます。若いときは、ある程度コアをつくって、日本はこうだよねとか、岩手はこうだよねとある程度理解して、こちらのいいところと比較することが大事だと思います。今回の地域創生専攻では、定員50人なら50人の学生全員を1週間でも1カ月でも半年でもいいですから、人それぞれに応じて外国を見る機会をつくってあげようと。外が見られる、自分のところと比較できる、相対的に自分のポジショニングを理解して、何をすべきかを考える。そのような機会をつくりたいと思っています。そのことが、6次産業化と相通ずるところがあって、一部分だけ知っていてもものづくりにならないので、全てを見渡せる、そのような人材が地域で活躍できる人材だと思います。まずそういうベクトルでつくって、それがもし必要であるとみんなが認識すれば、これが大きくなっていくというか、少しこういうものが重要であると、こういう意識をみんなで持ちましょうというところから始めたいと思います。

神田氏

わかりました。高橋会長は、農業に力を入れてほしいというふうにおっしゃっていましたけど、今度新しく水産コースをつくってやる。あとは、農業を含めても俯瞰的な人材を育てると岩渕学長はお話しになっていますが、そのことについてはどのようにお感じですか。

高橋氏

もちろん農業という、農学部ということで農業というお話ししましたけれども、実は岩手は林業においても、日本では2番目か3番目ぐらいの林業資源を持っていますね。先日、岩手経済戦略会議で、住友林業の市川社長もゲストの一人としてお呼びをしてお話を聞いたときに、「岩手の場合は樹種のバランスがとれている。特にカラマツが岩手の場合は非常に強みで、これは合板をつくるときも強度が杉なんかに比べると非常に高くて、有力な樹種になるというので、岩手の場合はこれから非常に楽しみだ。」ということを聞きました。ですから、林業の部分にも力を入れていくべきだし、もちろん水産については、とる漁業もそうですし、加工についても、私は非常に楽しみにしているのは、例えば宮古のチーム漁火とか、結構若い人が意欲的なところです。今30代から40代にかけて社長になっている方が大半を占めていますけれども、非常に漁業というか、水産業に対する意欲というのが高くて、しかも共通しているのがいかに稼ぐかという、そういうことが非常に強くて、やはり今までの農業にしろ、漁業にしろ、どちらかというと、先ほど学長がお話しされたように、農協とか漁協任せの、とるだけとか、つくるだけとか、そういうふうな発想しかなかったわけですが、いかに稼げる産業にするかという、そういう意識の変化というのが非常に感じられますね。

それから、またすこし話は変わりますが、葛巻町の畜産開発公社の専務から、外貨を稼ぐというお話を聞来ました。

岩渕学長

外貨ですか。

高橋氏

外貨です。葛巻町では、一番手間のかかる生まれたての牛から搾乳ができる段階まで、牛を公社に集めて育成するわけです。でも、町内の牛だけで例えば500頭とか育てるだけでは、町内の酪農家からもらえるお金というのは微々たるものにしかならない。これをもっと広げることによって、町外からたくさんの牛を扱うことによって、町外からお金をたくさんもらえる。そうすると、外貨を稼ぐという感じなのですね。さらに小中学生の体験学習とか、そういうのをどんどん積極的に引き受けているわけですけれども、それも外貨を稼ぐためにやっている。つまり小学生とか中学生にとっても非常に有益な体験になる一方で、葛巻町にしてみると、そこに来てくれることによって、色々なお金が町内にもたらされる。こういうふうな発想が今できるようになってきているという。ここが非常に大きな意識の変化だというふうに私は見ています。まさに6次産業までいかなくても、そういった発想ができる人が誕生してきているということは、私は将来につながっていくという可能性が高いのだろうというふうに思っています。

神田氏

なるほど、わかりました。いろいろどうやってお金を稼いでいくかという、そのような経営的なセンスというか、そういうのもやはり教育の分野にも期待したいところでしょうか。

高橋氏

そうですね。

神田氏

水産システム学のコースは、そういう6次産業化のこともきちんと勉強すると伺っていますけれども。

岩渕学長

水産システム学のコースでは水産学のみならず、経済や経営の先生方も講義して、従来とは違う経営的な要素というか、科目も入れながらやっていくということですし、地域創生専攻はそれがもっと強く出てくると思います。

神田氏

そうですね。大平さん、今地域創生のいろいろな県の計画もつくっていますけれども、地域の資源を使って地域創生をしていくということでしょうか。

大平氏

まさにそうですね。地域の資源をいかに発掘して付加価値をつけるかということなので、今の水産の話で言えば、呼子のイカや函館のイカのように、全国の先進事例を見て、三陸でも新鮮なものをそのまま市場に出すということが考えられる。三陸に復興道路が完成すれば、例えば釜石から花巻まで1時間5分、宮古から盛岡でも1時間15分、八戸から仙台まで4時間程度で行けるとなると流通も変わるわけですね。流通が変わるという場合、冷凍で出すという流通のやり方もあるし、採れたての魚をすぐ築地に出すなど、何か付加価値を付ける方法もある。何か一工夫というか、ブランド化というところで三陸ならではというものをという時に、単なる水産分野だけではなくて、先ほどの経営の話とか、あるいはデザインなどに、岩手大学が全部関わって、また、あるいは岩手県も、銀行も関わって、総掛かりで象徴的なものを作ることができれば面白いと思いました。人文系の人たちも、経営とか法学とか様々な分野の人たちが一緒にやっていただいて、チーム岩手大学水産みたいな、そういうものができればいいなと思います。

もちろんそういう場面には、女性や若者の活躍があるわけです。

神田氏

ありがとうございます。あと、地方創生に関して、大学院にそういう地域創生専攻をおつくりになるということでしたが、地方創生に関して岩手経済同友会で今回県の計画に対していろいろご提言もされていますが、そこら辺のお話を少しうかがってもよろしいでしょうか。

高橋氏

8月20日、21日の2日間、岩手経済戦略会議を盛岡で開催したわけです。この開催の大きな目的というのは、これまでの過去の延長線上ではなくて、やはり新しい戦略に基づいて地方創生をしていかなければ、岩手の地方創生というのは他の地域に比べて遅れてしまうのではないかという思いが1つありましたし、それから私自身も常々考えていることは、いずれ最終的には人の問題だろうと。人をいかに育成していけるかというものが地域間競争に打ち勝って、岩手が成長していく、持続的な成長を遂げていくための最も重要なポイントだというふうに思っています。私は産業界として、経済界とすれば、やはりまず真っ先に経営者がそういうふうな意識を持って、自分自身が変わっていく、そして成長していく、こういうことが大事だということで取り組みを始めたわけです。ただ、実際に開催をしてみて、思わぬことにさまざま私たちが刺激を受ける。ゲストとして日本を代表するような経営者の方に来ていただいてお話をしていただく中で、やはりいろんなヒントがそのお話の中に含まれていたということで、これをそのままにしておくのはいかにももったいないと。ぜひ県のほうにも、県の総合戦略の策定に当たっても、それを盛り込んでいただけるんであれば、私たちにとっても非常にありがたいことだという思いで、3つのことを提言させていただいたわけです。

1つは、地域からのイノベーションの創出という、地方創生を考えるということは、要するに地方のさまざまな経営課題をどの様に解決をしていくかということですけれども、この解決策というのは地域の中からしか出てこないと思うんですね。ほかからいろいろアイデアをもらっただけでは、決してそれは本当の解決策にはならない。ですから、この解決策というのは、やっぱり地方が変わっていくためには当然変革をしていかなければならないわけですから、そこに必ずイノベーションというのがあるわけです。イノベーションというの、ここではかなり広く捉えていまして、必ずしも新しい製品を開発するようなイノベーションだけにとどまらずに、例えば販路を開拓したり、組織を活性化させたりすることもふくめて、さまざまな広い概念を持ったイノベーションという使われ方をここではしているわけです。そういう意味でこの岩手に合った、岩手にふさわしいイノベーションをぜひ実現をしていきたいというのが1つ目なのです。

それのためには、さらにICTを活用する。特に女性の働く機会をもっともっとふやすあるいは若者が定着をして岩手のために働いてもらうためには、さらにICTの活用というものが非常に重要になる。グーグルの岩村さんがまさしくお話しされていたことですけれども、ICTを活用することによって女性が特に大変な出産や育児といったライフステージの変化というようなものを克服することができるわけです。意識だけを変えても、なかなか残念ながらそういった問題というのが解決できない。やはり仕組みを変えなきゃだめだと。仕組みを変えるための道具として非常に有効なのがこのICTの活用だということですから、私たちはどちらかというと意識の改革のところでとどまっているのですけれども、意識と仕組みを同時に変えることによって大きな変革をもたらしていけるというのが2つ目です。

3つ目が、これが最後の肝ですけれども、やっぱり人の育成ですね。人づくりをいかに強化していくかということですけれども、実はこの3つのところは岩手大学が全部絡んでいるわけです。ですから、この県に行った提言というのは、同時に岩手大学に期待する点です。

岩手大学の地域における人づくりとは?

神田氏

ありがとうございます。特に人づくりの強化のところにもかかわってきますが、岩手大学でCOC事業とかCOCプラス事業とか、いろいろ今地域で行っている人材育成に特に力を入れていますけど、今のお話いかがですか。

岩渕学長

イノベーションというのは、プロセスイノベーションやプロダクトイノベーションを意識するのですが、人材育成にはカルチャーイノベーションの発想も必要ではないかと考えています。要は生き方の問題。特に学生の地元定着率を上げようといったときに、岩手大学の学生が岩手についてどれだけ勉強しているの、ほとんど勉強していないですからね。もう少し岩手の自然なり歴史なり文化なり。宮澤賢治や後藤新平という人間がどういう人間で、どういう活動してということも。後藤新平は、東京では知られていても、奥州市出身だとか意外と学生の意識の中にない。ですから、そういう中で岩手というもののよさをきちっと学生に学ばせることは当然のことだと思います。あとは会社の意識改革でいい学生をきちっと積極的に採用するような仕組みづくりをしてくださいというのは、多分経営者へのお願いです。

もう一つは、価値観をどうつくっていくかというところがあります。学生が進路を決める場合、初任給をベースに会社を選んでいたり、あるいはネームバリューで選んでいたりする。要はそうではなくて、自然とか通勤時間を含めた人間らしい生活とか、そういうものを岩手が出さなきゃいけない。世界中の経済学者は、幸福になるためには物質的な発展を遂げることが必要だと言ってきました。しかし、ブータンは国民総幸福量の考えです。我々は成熟した社会だから物はある程度必要ですが、いつまでもお金じゃないですよね。そうすると、新しい価値観を、みんなで豊かさを共有しながら価値観をつくっていくという努力が必要ではないかと思います。学生にとっては、そのような価値観がかえって新しい価値観となる。それはマジョリティーじゃないにしても、こういう生き方があるよということを、地域でも世界に伍して仕事ができるし、休日は自然豊かな中で生活できるよとか。だからそういう幸福度係数とか、豊かさ係数というのか、岩手のほうが東京よりもいいところだよという、そのようなパラメーターをきちっと僕らが提案する。子育て環境にしても、通勤時間にしても。いろいろな意味で、みんな東京イコールベストと思うかもしれませんが、そうではない。要は文化の多様性に従った価値観を、岩手大学の人たちが理解しながら、岩手っていいところだよねと。地域を知って、地域のよさを理解して、地域に残って地域と考えながら地域をつくっていくかというのが、COCプラス事業のふるさといわて創造プロジェクトです。

神田氏

ありがとうございました。大平さん、県としてはILCの誘致にもすごく力を入れていらっしゃいますが、そういう中で岩手大学に誘致、あるいはそれに向けた人づくりという面で期待することはありますか。

大平氏

工学部を理工学部へ改組していただいたわけですが、理工系人材の養成は勿論ですが、県としては新しい分野にチャレンジするという点で、ものづくりの分野において、加速器に貢献できる部分があると思っています。今回、加速器関連の新産業に関する研究会を立ち上げて、工学部の藤代先生に会長を引き受けて頂きました。また、子供たちにもILCに興味を持ってもらいたいとも思っています。その子どもたちが中学生、高校生と成長する中で、岩手大学を目指そうとか、ILCの分野で研究したいとか、いろいろと考えてくれれば非常にありがたいと考えています。

神田氏

わかりました。

岩渕学長

ILCについては、予算規模が莫大だというところがあり、政治的な判断が必要なのだろうと思っています。実際に誘致が決定すれば、理学部系とか工学部系だけではなくて、まちづくり系とか教育系に対して我々がコミットしていけるのではないか考えています。それは、新しい1万人のまちをつくるとして、それは日本人だけじゃない、国籍も宗教も違うだろうし、いろいろなバックグラウンドもった人たちが住む。そういう中でコミュニティーをつくっていくということは、ある意味では、復興と一緒ではないかと思います。被災地の避難所や災害公営住宅で新しいコミュニティーができていくプロセスと同じではないかと。そこにどの様に我々がコミットしていけるかということ。ですから、もう工学、理学だけではなく、総合的な生活の空間をつくるという立場で言えば、大学はほかの学部の人たちもいろんな形でコミットしていけるはずだと思っているわけです。

大平氏

そうですね。例えば、教育学部では外国人の子供たちの教育をどの様に行うか、あるいは日本人の子供たちの英語教育をどのようにするか、というように環境が大きく変化すると思いますし、それを学ぼうとする学生が、岩手大学の教育学部に進学しようとする。そういう特徴付けにILCがなると思います。

岩渕学長

先ほどの地域先導という意味でいうと、グローバル化もそのひとつです。今、岩手大学には200人規模の留学生がいます。そういう中で、彼らが満足して日本で生活できるという環境づくりというのは、ここは新しい、例えばILCのコミュニティーづくりの事例になります。そのようにいろんな意味で岩手大学がトライすることによって地域のいろいろな雰囲気というか、やり方なり、方法論を提供できるということは、地域を先導するという意味合いになるのかなと思っています。

外部有識者と学長との対談(※H27.10.05)

岩手大学に期待すること

神田氏

わかりました。最後に一言ずつ、まだお話しの足りない部分についてお話しいただければと思います。高橋会長からお願い致します。

高橋氏

実は私、非常に気に入っているフレーズがありまして、私がかかわっているJR東日本の経営計画の中に、変わらぬ使命と無限の可能性の追求というのがあります。つまり要するに不易流行のことを言っているのですが、岩手大学の変わらぬ使命というのは何なのか、それから無限の可能性の追求というのは何をやるべきことなのか、ここをはっきりさせて進んでもらいたいなと思います。

神田氏

ありがとうございます。では、大平部長、最後にお願い致します。

大平氏

岩手大学の「岩手の"大地"と"ひと"と共に」というフレーズは、県の復興計画のフレーズである「いのちを守り 海と大地と共に生きる ふるさと岩手・三陸の創造」と意味するところは一緒です。岩手の大地と人づくり、大地と共に生きるという、まさに岩手県の目指すところと岩手大学の目指すところは同じです。ですから期待しているところは非常に大きい。当然、同じところを目指しているが、やり方、アプローチは違うと思います。

岩渕学長

行政と大学という、教育機関との違いもありますけども。

大平氏

ええ。これからの岩手県の目指すところと、岩手大学の目指すところは同じところにある。だから、いわて未来づくり機構などでベクトル合わせを行っていて、あとは実際の活動の中でどうやっていくか。同じ目指すところに向かって、一緒に手を携えてできればと思いますので、よろしくお願いします。

岩渕学長

どうもありがとうございます。

神田氏

最後に岩渕先生、大学だけでは第3期の中期目標・計画を達成することは難しいと思います。産業界、県、いろんな方々と一緒にやっていくことが必要でないかと思いますが、最後に一言お願い致します。

岩渕学長

高橋会長が最初に言われた岩手大学は何で存在感を示すかということについて、今日はすごく大きいテーマをもらったような気がしています。まだ、構想中であるのですが、それをきちっと示す。表現することで構成員みんなの情報の共有化につながる。だから、そこをもう一回、地域連携なら地域連携のこういうところだよともう少し強くみんなで議論しながら示していければいいかなと思います。我々のスタンディングポイントは、岩手にあるということだと思います。ですから、岩手大学を山形に持っていく、沖縄に持っていくということはできないわけで、岩手でできることしかやれない。そういう意味で、僕の頭の中には復興をどのように継続して、復興からどういうふうなことを我々が学んで、それをどうやって次世代につないでいくか。それは教育を通してつないでいくしかないのだけど、国連の防災会議で復興支援活動を報告したときも、「あなた方やってきたことはすごく価値があるのに、価値を見ていないのではないか」と言われたパネラーがいました。ですから、釜石ではこうやりました、宮古ではこうです、陸前高田ではこういうことをやって、我々は一生懸命頑張って、だからそういうことから何がわかって、次の備えに対して世界に発信する。南海トラフの問題もありますし、いろんなところでこういう災害が起きて、同じようなダメージを受けて、岩手大学はそういうところに対して、大学としてこういうことが出来るのですよと。今までの経験をもう少し昇華させるというか、それを世界に発信する。そのことで、それを目指す学生は世界から集まりますよと。ですから、人材育成という一つのベースは絶対ですが、価値観の変革とか、いろいろと考えていかないと、今のままではシステムも変わらないわけだから、そういう意味でやはり皆さんの期待に応えられるようにということです。しかし、大学だけというのは力としては限界があるので、外の力もお借りして一緒にやるという姿勢かな、協働とか共創とか、ともに一緒につくり上げる。そういうことで我々頑張っていきたいと思いますので、地域の皆さん方にもご協力とご理解、ご支援をお願いしたいと思います。本日は、お忙しいところありがとうございました。