menu

外部有識者と学長との対談(H28.11.25)

外部有識者と学長との対談(※H28.11.25)

岩手大学三陸復興・地域創生推進機構
発足記念シンポジウム
鼎談「地域創生における大学の役割」

岩手大学は、三陸復興・地域創生推進機構発足記念シンポジウムにおいて、「地域創生における大学の役割」をテーマに、坂本文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課長、本田遠野市長、岩渕学長による鼎談を行いました。地域を先導する人材やリーダーシップの重要性、地域の社会システムを変えるイノベーションの必要性など、地域の継続的な発展のため大学がどんな役割を果たすべきか、忌憚のない意見が交わされました。

開催日時: 2016年11月25日(金) 16:25〜16:55
場所: 岩手大学復興祈念銀河ホール
テーマ: 岩手大学三陸復興・地域創生推進機構発足記念シンポジウム 鼎談「地域創生における大学の役割」
出席者: 文部科学省 科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課長 坂本修一 氏
遠野市長 本田敏秋 氏
岩手大学長 岩渕明 氏

出席者紹介

  • 坂本修一 Shuichi Sakamoto

    坂本修一 Shuichi Sakamoto

    1967年生まれ。京都大学工学部卒業、マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科修士課程修了、京都大学博士(エネルギー科学)。1992年旧科学技術庁入り。文部科学省研究開発局宇宙利用推進室長、地球・環境科学技術推進室長、大臣官房会計課予算企画調査官、総務課副長、ナノテクノロジー・材料開発推進室長、研究開発戦略官(核融合・原子力国際協力担当)を経て、2014年10月より科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課長。

  • 本田敏秋 Toshiaki Honda

    本田敏秋 Toshiaki Honda

    1947年岩手県遠野市生まれ。1970年神奈川大学法学部卒業。同年岩手県庁入り。消防防災課長、工業振興課長、企画調整課長、久慈地方振興局長などを経て、2002年の旧遠野市長選で初当選。2005年の合併に伴う新市長選に無投票当選。現在通算4期目。

  • 岩渕明 Akira Iwabuchi

    岩渕明 Akira Iwabuchi

    1949年宮城県生まれ。東北大学工学部卒業、東北大学大学院工学研究科修士課程修了、東北大学工学博士。1974年東北大学工学部助手。ノッチンガム大学(英国)研究員、岩手大学工学部助手、同教授、理事(総務・地域連携・国際連携担当)・副学長などを経て、2015年3月より岩手大学長。


自治体の取組に、より良い刺激や助言を与える
パートナーシップを

岩渕学長

只今、二人の先生方にご講演をいただき、岩手大学の応援を頂きました。本当にありがとうございました。いろいろとキーワードがあると思います。遠野市長が最後におっしゃった「震災」が、我々の一つの大きいターニングポイントとなりました。「大学もやれるところをやりましょう」と。

その後、そこから得た知見をどのように教育に還元するかということで、岩手大学では学部改組を行い、「水産」という新しいフィールドにも取り組んでいます。しかしながら水産という新しい分野では自分たちで何も出来ないということで、東京海洋大学、北里大学と連携し、北海道大学、東北大学、愛媛大学のサポートを受けながら、水産分野の取組を行ってきたわけです。

遠野市長の話では、自治体とか産学官それぞれのセクターがそれぞれの立場から応援していく。坂本課長のオープンイノベーションというのは、ある意味でクローズな中でやると限界がある。だからいろいろな地域あるいは産業界、産業界でも大手から小さいニッチトップな企業までいろいろある中で、オープンイノベーションというキーワードで連携を行うこと。それを「産業云々というところを地域に置き換えたら同じこと」という表現をされているんですね。

単独で取り組む時代は限界だということは、明白だと思います。いろいろと科学技術のあり方もある。単に大学が学問を教えるだけではなく実践を通して「課題は何なのか」を自分たちで見つける。そこからどう発展させるか。そういう中で大学も変わって行かざるを得ないと思います。

ある意味で大学は象牙の塔のようなところで、社会がどうであろうと、じっくりと自分を追求し、学問を追究していく。このようなスタンスも否定できないところではあります。ですから地域と大学がどういうふうに連携していくか。学の役割というのを考えたいと思います。たとえば遠野市の「まち・ひと・しごと」の戦略の中でどういう役割をしてきたか。学の役割に対する期待があればまずお話頂きたいと思います。

本田氏

先ほどの講演のなかで「遠野デザイン」というお話をさせていただきましたが、それぞれの単なる目標だけでなく数値目標を取り入れた計画を策定したわけです。この計画を進める際に、岩手大学の先生方に色々な形でご指導を頂きたいと思っていました。ただし計画を進める上で、岩手大学の先生方に全てにおいてアドバイス頂くのではなく、遠野市として、この部分は我々で何とかやれるが、この部分は岩手大学の先生方からいろいろな形でご指導を頂こうと。 何もないまま、「宜しくお願いします」ではなく、「今、こういった部分で困っているし、なかなか前に進めないんだけれど、先生、ひとつどうでしょうか?」と問いかけるような人材を我々もちゃんと育成していかなければいけないと考えています。ただ丸投げで「お願いする」と言っても連携にはならない。やはり「こういう課題があって、そのなかで、こうしたいのだが」という部分まで言えるような遠野市職員でなければいけないと思っています。

ものづくりにしても、ローカルベンチャーという言葉があります。さきほどの講演で文科省の坂本課長からいろいろな地域支援のお話がありました。『「まち・ひと・しごと総合戦略」」の中で内閣府の関係者の方に、「先駆性とか先見性とかばかり言わないで、我々が本当に悩んでいる泥臭いものをどうすれば次のステージにもっていけるのか、あるいはもっと付加価値が付けられるのか、あるいは商品化が出来るのか、もっとネットワークとしてもきちんと絆が出来るのか。そういう形に持って行くために公的資金をつかえないのですか」と相談しても、実現するのはなかなか難しいようです。

逆に市町村同士を競わせるという方向に進んでいるような感じがしています。嫌な言葉ですが「勝ち組負け組」という言葉まで、市町村の中で話題になる時代です。そういうノウハウを持っている人材がいる市町村と持たない市町村ではどうしても差が付いてくる、ということになる。また、見えないけれども市町村というバリアは結構高いと思います。

岩渕学長

市町村合併ということでしょうか。

本田氏

連携と一口に言うけれど実際、連携することは難しい。またネットワーク構築といってもなかなか構築できない。それを「違うんだ、こうすればもっと良くなるよ」ということを、「学」の立場から積極的に発言してもらいたいと思います。

岩渕学長

組織の壁という意味で言うと、宮守村と遠野市は平成17年に宮守村と合併しましたが、自治体同士の融合化は如何でしょうか。

本田氏

おかげさまで上手くいっています。

岩渕学長

遠野では先人から受け継いできた豊かな自然や伝統的な文化を次世代へ残すべき地域の宝物として「遠野遺産」として認定されていますが、このような地域文化の認証制度も融合化の一役をかっているのでしょうね。

本田氏

遠野遺産でも、岩手大学の先生が調査して学術的な裏付けを行ってもらえば、地域の方々も、その価値を再認識してもらうきっかけになると思います。

岩渕学長

外部評価により、その価値を再認識するということでしょうか。

本田氏

「学」の力により、豊かな自然や伝統的な文化が再認識されると我々も「やっぱり大事にしなければならない」と地域が一つの力になっていくと思います。

若者が新分野に挑戦しやすくなる
環境づくりや支援の仕組みを

岩渕学長

オープンイノベーション的に言うと、自治体だけではなく文科省にも局を超えて取り組んでもらいたいのですが如何でしょうか。

坂本氏

文科省の組織をもっとイノベーティングするようにというのはおっしゃるとおりです。さきほど私もプレゼンでご紹介したガイドラインがまさに産学連携というものを進めていく上での一つのチャレンジです。

つい最近まで産業界と大学は対立する存在と言われていましたが、我々は文科省の中で産業界と一番近い部署です。経団連とかその他の経済団体と風通しを良くしようと。その中でさっきのガイドラインの話が出てきました。「大学と産業界を結びつけることは価値があるからこそやっているのだから、一緒にやろうじゃないか」と、我々も文科省の中でやり始めています。特に、そういう担い手になるのは若い方です。若い方はそういうのをすぐに乗り越えられる。

先ほど本田遠野市長からもお話がありましたが、そういう時にシニアの人たちに認められる80点とか90点の案を作ってから取り組むのではなく、とりあえずやってみる。更に、上の人たちが温かく見守るようなシステムなりカルチャーが必要です。もしかしたらアクションやプランや目標の中に乱暴な部分があるかもしれないけれど、でもやってみて価値が出そうだったらそれを褒め称えるし、「とりあえずやらせてみようよ、やってみようよ」という雰囲気づくりは、イノベーションを起こすのに必ず必要になってきます。

岩渕学長

イノベーションというと、新しい物を作って、それにいかに付加価値をつけて売って経済活動を活溌にするかというのが定義となっています。だけどその先に、文化を変え生活スタイルを変えという所を目指さないといけないと思います。スマートフォンにしても確かに悪い面はあります。ラインでいろいろ疎外され自殺に追い込まれたとか、いじめを受けたというような所もあるけれども、ウェアラブルでインターネットに繋がって情報が得られるようになった。そういうように生活までインパクトを与えるようなことが必要。イノベーションといった時に私がよく言うのは、地域イノベーション。イノベーションの前に「地域」がつきます。

本田氏

「地域」ですね。

岩渕学長

地域創生の中で様々なイノベーションを起こさなければなりません。『「まち・ひと・しごと総合戦略」」として考えたとき、仕事でどうやって若者を呼んでイノベーションを起こすかではなくて、その地域の社会システムまで変えて行くようなイノベーションが必要です。 産業はなくても良いけれど、新しい視点で町の方向性を提案していけるような人材が不可欠。まず人が重要で、それを実践させるリーダーの存在が鍵を握ります。

本田氏

そのとおりです。

岩渕学長

だから、例えば遠野市の人口が2万8千人を切ろうとしている現在に、60点の提案というのはどういう意味があるのでしょうか。

本田氏

今の60点の話ですが、60点取れば進級できるんですよね?(笑い)。優良可という言い方は、今はないかも知れませんが、可でも進級出来ますし、最終的には卒業できます。優ばかりでなくて可で卒業出来ます。だから「優を取ろうとばかりするな、可でも良いんだ」ということで前に進む。今日は遠野市の職員も来ていますが、そうなると60点という部分で物を考えてしまってそれ以上詰めることをしない。情報も足らない。すると職員から「だって市長は60点でいいって言ったじゃないですか」と言われることがあります。それに対して「いや違う。もう少し勉強しろ」というわけです。「大学の先生とかそれぞれの関係者、企業の方からアドバイスを貰って80点90点の答案用紙を作れば市民の皆さんは、『あ、なるほど』ということになる。そういうプロセスを60点と言っているんだぞ」と。「最初から60点で良いということではないんだ。60点の叩き台が出来たら、産学の連携の中でそれを80点にする。すると市民の皆さんは『さすがだね』ということになるんじゃないかな」と。そのプロセスを言っているんですけれどね。

岩渕学長

重要なのは、若い世代が取り組む際にはスタート時点で60点でも良いと思う。その後に実践を通して更に上を目指す。そこには「最初は60点でもいいから頑張れ」と言うリーダーがいないと、やっぱり60点で止まってしまうのではないでしょうか。地域を変えていくためには、新しいシステムを作り上げていくリーダーもいないといけない。若い人ばかりでやったって、なかなかシステマティックに動かないと思う。だからリーダーも変わっていかなければならない。

本田氏

そうですね。

外部有識者と学長との対談(※H28.11.25)

人命に関わるような重大な場面でリーダーが適切に判断を下すための倫理基準や、若者の新分野挑戦への環境づくりなどに「学問」が力を発揮すべき

岩渕学長

例えば、今までの既得権みたいなものがあって、それを変えていかないと新しいシステムを構築できない。その時にリーダーはどう立ち振る舞うか。その辺が非常に大きなポイントかと思います。

本田氏

やはり人材ですよね。一つのジャッジを出せる、あるいは「行こう!」という一つの命令を発することの出来るリーダーということに尽きると思います。

今だから話せますが、5年8ヶ月前の震災の時に仮設住宅が次々に建っていった。しかし、通院なり通学なり買い物に不便だということで、なかなか被災者は仮設住宅に入らなかった。一方で、ボランティアの方々が「遠野市から被災地に通うよりも現地の仮設に入って、より被災者の方に寄り添ったほうがいい。仮設に入らせてくれ」と言ったわけです。「ああ、入るべきだ」と私は答えたわけですよ。すると、「仮設住宅は災害救助法によって、災害で住宅を失った方が入る住宅であります。よって入れるわけにいきません」。国交省が建てたけれども入居を許可するのは厚労省の管轄だと言う。厚労省に聞いたら「やはり駄目です。目的外使用です。」という答えが返ってきた。厚労省に再度「どういうことですか」と言ったら「聞かれるとそう言わざるをえない。黙ってやって下さい」と(笑い)。黙ってやって下さいということは、そこのそれなりの人が判断すれば出来るわけです。それがなかなか・・、まさに意識の壁であり制度の壁であり、だから空き家がいっぱいできてしまった。

岩渕学長

啖呵をきる度胸があれば大丈夫なんですね。「必要な物はこれだ。俺が決める!」と。決定というのはとても重いですよね。学長やっていて、つくづく思います。でも「責任は俺が取るから、やれ!」というリーダーがいるのといないのとで全然対応が違ってくるというか、スピード感が違うと思います。

本田氏

そうですね。全国で多発している自然災害。8月30日の台風10号。私の所も間一髪、危機一髪だったのですが、被災された自治体ではあの雨風の中で、あれだけの山の中で避難準備、避難勧告、避難指示を首長が出すような定めになっていますが、難しい判断だったと思います。

岩渕学長

今、法律の話が出てきましたが、僕らが最初に陸前高田市に行って戸羽市長と話をしたときに、東日本大震災のような大規模な災害時に市職員が公務員としてどのレベルまで業務を遂行すれば良いかというものでした。その限界点を学問的に解釈するとどうなるかというものでした。公務員は市民のために働くもの。一方、自分の命も守らなければいけない。緊急非常事態とか超法規で動かざるを得ない場合、どこまで許されて、どこからはNGかという限界は、やりながら判断せざるを得ない。

本田氏

やりながらですね。

岩渕学長

何が言いたいかというと、そういう現場の問題を学問的にどう展開していくかというのは、今度は我々の仕事になってくる。だからそこを来年度設置する地域創生専攻の社会科学系の先生方がきちっと理解していくことで次のステップに繋がっていく。例えば次に南海トラフで大規模地震が起きた時にも、自治体の長の人達が、事前に我々が発信する情報を受け止めてもらえれば緊急時にもうろたえることなく仕事が出来るのかなと思う。それが法律までいくかどうかは別として、そういうことが問われているんだろうなと思います。

だから、今までの学問を教えるだけではなくてフィールドからどう学んでいくかということ。「産」が学問の道場だといったことを我々も理解しながら突き詰める。我々は学問を教える所が大学だというようなことを気持ちの中に持っていたわけです。だけど、もっと実践を通して新しい物やシステムを構築していかなければいけないと思います。

本田氏

まさに実践ですね。

岩渕学長

実践を通して、そこで考えていくプロセスが地方創生に置ける大学の役割かなと。産業界から日本の産学連携はなかなか成果が見えないと言われます。政府のお金を300億円投資してもなかなか事業化が見えない。「何で見えないの?」と言うと、先生方はやはり100点を目指すわけです。だから5年間のプロジェクトの中で8合目まで登らなければならない。80点くらいまでは出しますが最後のツメである事業化のところでは、金の切れ目が縁の切れ目でそこで終わってしまう。また次の山を登り始める。で、また8合目で終わってしまう。だから100点を目指すのではなく80点でも事業化なり、実用化に行くようにする。100点を目指さなくてもいい。そういう所の判断はすごく難しい。

学の立場で頂点まで上り詰めるべきことと、「80点でも良いから我が社で事業化する」という産業界、そのあたりに研究者との掛け違いのようなことがある。坂本課長からもコメントいただけないでしょうか。

坂本氏

今の岩渕学長のお話だと政策的な見解を捉えていると思うのですが、その前の本田市長と岩渕学長の、特に災害などでリーダーが判断する時という話がありました。その際に「学」がどういう役割を果たすべきかという話題も挙がりました。

以前、NHKで見たハーバード大学のサンデル教授の「白熱授業」で、「正義とは何かを議論しよう」という回がありました。アフガニスタンに米軍が入っていった時に、アフガニスタンの住民に遭遇する。米軍の彼は隠密行動をしているわけですが、その時にたまたまその住民を助けた。助けた住民をどうするかで葛藤があったけれど、結局住民を逃がした。その後逃がした住民が通報して米軍が襲撃されてしまった。米軍の彼はどうすべきだったかということを、ハーバード大学で議論するわけです。

正義とか倫理とか人間のあるべき姿はどうあるべきか。こういうことこそ学問が説くべきだというのは、今まさに世界中で議論されている大学のあり方が問われている所です。

リーダーが、本当に人命がかかっているような重い判断をする時、どういう情報で何を基準に判断したらいいか、そういう所も学問の大きな役割だと思います。もし、今、不十分な仕組みしかなければ、それをどういうふうにすれば改善され、より良い意志決定ができるか。これを構想するのは多分大学が自治体なり産業界と一緒にやるべきことだと思います。そういったリーダーの社会的意志決定をどのようにより良いものにするかということ。また、若者が新しい価値を作ろうとする時に、そのチャレンジをより良いものにするために、粗々の不十分な提案かも知れないけれども、その中の価値を認めてあげてエンカレッジする。また、欠点が見えているならそれを指摘してあげて、より良い提案に軌道修正する。これも多分チャレンジャーに対する学問が支援すべき所です。そういった所にもっと学問的知見、情報なのか蓄積された知識なのか、あるいは分析ツールなのか、発想のツールなのか。そういうものを我々文科省や大学は、もっと社会の中に持ち込むべきだろうなと思います。

そういうことをやろうと思うと、今、本田市長と岩渕学長がされているこういう会話の中で、一体自治体は何を求めていて、大学は何が出来そうでということを本音で議論して頂く。またリーダーの間で議論して頂く、それから現場の若い方々、市役所の若い方と大学の若い教員の方々あるいは学生さんが一緒になって議論して、提案を作ったり意志決定の仕組みを構想したり、いろいろな階層でコミュニケーションするということを是非やって頂きたいと思います。

本田氏

そうですね。私も現場の首長という立場ですが、やはり市町村議会もあり、選挙もあり、そのなかでやっているわけで、なかなかその壁を上手く越えられない。

岩手大学と我々市町村が協定を結んで定期的に意見交換する場があります。そのような際に先生方、学生、首長も入る。さらに市町村の議会議員を巻き込む仕掛けがあればいいと思います。我々も、例えば岩手大学さんとこのような場でそれぞれの立場で意見を交換するというのはすごいことです。

例えば議会で答弁などしてもなかなか協議出来ないこともあります。市町村という一つの単位のなかの市町村議員も変わろうともがいておりますから、そこに何か一つの楔を打つ。また市町村長も産学官そして金労言(事務局注:金融、労働、言論)ということであれば、その仕組みの中で、それぞれ地域の60点を70点80点に持っていくためにみんなで頑張りましょう、という環境を作る。「学」の立場でその役割を持ってもらえればと思います。

外部有識者と学長との対談(※H28.11.25)

人づくり、地方イノベーションの推進のため地域の魅力をどう高めていくか

岩渕学長

やはり自分の中に外の意見が入ってくることによって、自分たちの社会的価値の意味づけを自分たちで理解していく。自分たちで行うとルーチンワークで終わりだけど、外から指摘されることで改めて自分たちが進むべき道とか、やっていることの誇りとかが理解できることもある。

一つ市長に聞きたかったのは、先ほど講演で「遠野の幸福度」と書かれていましたが、具体的にはどのようなものでしょうか。

本田氏

もう7〜8年前ですが、「市民所得を増やすためにはやはり産業振興だ。雇用をしながら収入を増やしていかなければならない」と、酒を飲みながら職員と議論していたら、ある職員に「いや、所得向上は勿論大事だけれど、市長、心の所得を増やすということも大事にしませんか」と言われたんです。心の所得を増やす。それがまさに幸福度。

岩渕学長

私も県の委員会のメンバーですが、要は、地域を創生していくという意味では、やはり人がその地域を愛さなければいけないわけです。いくら収入があったって地域を愛さなければ腰掛け的になるわけだから、やはり自分たちがこの地域に住むという誇りを持つということが幸せ度の向上ということに繋がるだろうと思います。そこは我々もCOCとかいろいろと事業をやりながら地域定着を目指していますが、よく学生に「私は青森県出身ですが、岩手県に就職しなければいけないんですか?」と質問されます。私は「青森は青森なりの地方創生をやらなければならない。岩手をフィールドにして地域を知るというプロセスを理解してもらい、青森に戻って青森で活躍すれば、別に我々はこだわってないよ」と答えます。まあ岩手出身者は残したいという思いはありますけれど。そういった意味で人材育成で地域創生を目指そうと言った時に、どうやってそのマインドを学生に醸成させるかが重要です。

本田氏

マインドですね。

岩渕学長

マインドをどう変えていくかということ。劣等感で「しようがないから俺の立ち位置として遠野に住んでいる」というのではなくて、「やはり遠野に住むことが東京より価値がある」ということ。価値観づくりを教育の中でやっていかなければならないと思っていますが、坂本課長その辺は如何でしょうか。人づくり・地方イノベーションをやるために志のある人材をどう育てていくか。

坂本氏

地域を発展させる。例えば地域の魅力をどう高めていくか、発展の阻害要因は何かというと、現場の方々、それに取り組まれている方々、行政でも事業者の方でも分かっていらっしゃると思います。みんな試行錯誤している。それぞれ状況が違う。人の能力の問題かも知れないし、リソースの問題かも知れない。そういう時にどういうアプローチが適切かというのを、ある程度分析的に考える。そういったちょっとしたツールと使える知識、あとはやる気ですよね。そういうものを持った人材を大学は送り込んで、それを指導する先生も送り込んで現場の方々と一緒にやる。課題解決に取り組む。そういう実践。それが岩手大学三陸復興・地域創生推進機構がこれまでされてきたことでもあると思うのです。そういった所をもっと若い人が、さっき市長がおっしゃった先見性であり、行政・政府が、それを重視するというところにも繋がってくると思います。文科省の中でも反省するところがあるのですが、ある意味泥臭いと思われているテーマって、もはや現場の人に任せておけばいい、という所があって、それがボトルネックになってしまう訳ですが、そうではなく、何かしら新しい切り口、本田市長がさっきおっしゃった新しい切り口ということになるかと思いますが、そういう切り口を構想する知識と学問的なツールというような形で与えていく。そこに新しい世界が開けるし、人を豊かにする。そういう営みをエンカレッジして、またそういう営みを褒めて、それがさらに学問的に「あ、俺たち新しい流儀をつくっているじゃないか」「新しいツールを実証したじゃないか」というような形でサイクルとして回していける。これが大事だと思います。そういう仕組みを作っていけばもっともっと大学は地域と密接に繋がって地域を発展させる若い人材を供給できるようになるのではないかと思っています。

本田氏

市町村という現場の中にあって、住んでいる人が「うちの市は、うちの町は、うちの村は」という誇りを持っていなければ魅力ある自治体とは言えないと思います。だから交流人口を定住、移住にシフトさせたい場合には、やはり受け入れる我々の方が自信や誇りを持たなければいけない。その自信と誇りをどう持たせるかは、実は若い方々・学生さん方の力というのは大きいんですよ。特にお年寄り達のいる所を見ると「孫が帰ってきた」という形で受け入れる。「じいちゃん、ばあちゃん」と言いながら、じいちゃん・ばあちゃんの力を引き出してくれる。そういう高齢者の力を引き出す若い方々の力というのはものすごくあります。だから学生のパワー、若い方々のパワーをどのように我々が受け入れながら、それを魅力に繋いでいく仕組みに持っていくかがすごく大事。そうなると一つの教育ということに繋がっていくんじゃないでしょうか。

フィールドから学び、実践を通して考えていくことが地方創生における大学の役割

岩渕学長

教育というのは人材育成そのものですから。

あっという間に時間がきたようです。岩手大学はこれからも地域を先導する人材育成に取り組んでいきます。最後になりましたが岩手大学に対して何か一言ずつコメントいただけないでしょうか。

坂本氏

いつも岩渕学長にたいへんお世話になっていますが、こういう白熱した議論が出来る、される学長から、文科省の職員としてまた一人の行政官として大変勉強させて頂いています。こういう形で自治体のリーダーの方とも議論され、あるいは産業界の方とも議論されるということを、我々行政側も岩渕学長を見習ってやらせて頂きたいと思います。やはり社会を変えていきたい。我々も推進力になりたいと思います。岩手大学と一緒にそういうことを実践させて頂きたいと思いますので、今後ともどうぞ宜しくお願い致します。

本田氏

合併前と合併後、震災前と震災後というなかで市町村という一つの現場の意識を変えていかなければならない、発想を変えていかなければならない。かつては市町村ごとに協議会を作り、同盟会を作り、陳情書を持って国の方に行くことになっていたのが、市町村合併で大きく様変わりをしてきました。となれば、その中で水平連携として市町村同士で連携の枠組みが出来てきます。だからそこに大学の「学」と、企業の「産」がどのように上手く噛み合ってくるか。国・県・市町村という連携も勿論大事にしなければいけないが、市町村と産学官、それに金労言というものをどのように縦と横の糸にするか、縦糸と横糸がすっかり噛み合えば紐じゃないんですね、布になるんです。そうするとほとんどが壊れない。壊れない組織になるということです。

坂本氏

一言だけ。いま市長がおっしゃったことですが、口幅ったいようですがドラッカーが社会に対して大学がどう貢献するかということで、「すでに起こった未来」をいかに捉えて能動的に対応していくことがいかに重要かを言っています。「すでに起こった未来」というのは、構造変革の中で一番典型的なのは人口構造です。人口構造の変化は既に起こっているわけですが、それが一体社会に産業構造に何をもたらすかというのはなかなか読めないところがあるんです。それを学問的アプローチ、社会学なのか政治学なのか哲学なのか法学なのか、そういうところで学問としてそれを示し、それに備えるために行政は、産業界は何をしていくべきかを提示していくのは、やはり学問だなんですね。ということをドラッカーも言っています。これをいま多分、市長は縦糸横糸ということでおっしゃっているんじゃないかと思います。是非これを我々はアカデミアの皆さんと共にやらせて頂きたいと思います。多分岩渕学長はそういうことをお考えになっていると思います。

本田氏

ぜひ、立派な反物を作りましょうよ。(笑い)

岩渕学長

いや、私は三次元を作りたいんですよ。二次元よりも(笑い)

本田氏

縦と横の糸がしっかり合わさって、その布の中から岩手大学が浮かび上がって欲しいと思います。

こういう場なので、一言だけ御礼を申し上げたいのですが、遠野市が東日本大震災の時、後方支援ということを形にすることが出来ました。その背景には前岩手大学副学長の斎藤徳美先生のご指導がありました。火山帯でもない、活断層もない分厚い花崗岩で、大きな地震が来ても壊滅的な被害を受けないのは遠野市だということを、きちんと学術的な資料の中で提供頂いた。そこで後方支援が出来た。「海がないから津波は来ない。しかし遠野市の役割がある」という一つの方程式を組み立てて行ったのはまさに学の指導があったから遠野は形にすることが出来たということを、この場を通じてお礼申し上げたいと思っています。

岩渕学長

岩手大学も震災後、地域防災研究センターを立ち上げ、この間の台風10号でも岩泉町、久慈市、宮古市などで現地調査を行うと共に、学生ボランティアを募り、延べ400名の学生が現地でドロ上げ等のボランティアを行いました。大学として、できることから地域のニーズに合わせてやることが当然ですが、そこから何を学んでくるかということまで消化させていかないと、やりっ放しになるということです。我々は「実践」の中から得た知見を教育の中に反映させるように頑張っていきますので今後も文科省はじめ地域の自治体も宜しくご支援頂きたいと思います。本日はどうもありがとうございました。