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【研究紹介】省エネ型メモリー素子の開発に向けた、高温磁気強誘電体の探索

掲載日2020.12.22


Fig0_著者写真.jpg

理工学部 物理・材料理工学科 数理・物理コース
助教 谷口 晴香
【固体物理学、強相関電子系】

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1.磁気強誘電体、電気磁気効果とは?

磁石のような性質(磁気秩序)を持つ物質は磁気メモリー等に応用できます。このような物質がコンデンサーのような性質(自発電気分極)も併せ持つ場合には磁気強誘電体と呼ばれ(図1(a))、電気磁気効果という現象を示すため(図1(b))、エネルギー問題を解決する新デバイスの開発につながるとして注目を集めています。

  • Fig1.jpg図1:(a)磁気強誘電体の定義。(b)電気磁気効果のイメージ。黄色い矢印が電気磁気効果に相当します。


少し詳しく説明すると、磁気秩序は磁化Mや磁化率xに現れる磁気的性質であり、自発電気分極は電気分極Pや誘電率εに現れる電気的性質ですが、これらはいずれも物質中の電子の振舞によって決まります。電子1つ1つは-1.6×10の-19乗 クーロンの電荷を持っていますが、この電荷が物質の電気的性質を左右します。一方、電子は自転によって小さな磁石としての性質も持ち(=スピン)、このスピンが物質の磁気的性質を決定します。通常の物質では電気的性質をコントロールできる外場は電場だけ、また磁気的性質をコントロールできる外場は磁場だけです。しかし、面白いことに磁気強誘電体では電荷とスピンの間に対応関係があるので、電場によって磁気的性質を変えたり、逆に磁場によって電気的性質を変えることができます。この現象を電気磁気効果と呼び、電場によって書き込める省エネ型の磁気メモリー等への応用が期待できます。

2.室温で動作する磁気強誘電体を目指して

このように有用な磁気強誘電体ですが、ほとんどの場合に電気磁気効果を示す温度が非常に低く、約-240℃(=絶対温度に換算すると約30 K)以下であるのが応用上のハードルとなっています。30 Kというのは高価な液体ヘリウムを使わないと到達できない低温です。もし電気磁気効果の起こる温度を安価な液体窒素の沸点77 Kまで引き上げることができれば(=高温磁気強誘電体)、応用の可能性がぐっと広がります。そこで私たち松川研究室では、電荷整列という現象(図2)がカギとなる新しいタイプの磁気強誘電体を探しています。

  • Fig2.jpg図2:電荷整列のイメージ。格子点は物質を構成する遷移金属イオンの位置、赤丸は電子を表しています。左から順に、(特定の軌道に属する)電子の数が遷移金属イオンの数の1/2, 1/3, 1/4の場合です。

電荷整列とは電子どうしがクーロン反発力を及ぼし合った結果、規則的に並んだ状態で動かなくなる現象のことです。この現象は約100~200 Kという比較的高温で起き、かつ磁気秩序を伴うことが多いため、高温磁気強誘電性の起源として期待できます。

3.電荷整列マンガン酸化物における電気磁気効果の発見

電荷整列タイプの磁気強誘電体の候補として、私たちはCaMn1-xSbxO3という物質(図3(a))に着目しました。この物質では「MnイオンをSbイオンで置き換える割合x」を変えることで電子の数を変えられるので、電荷整列に有利な状況を作り出せるのではないか?と考えました。

  • Fig3.jpg図3:(a) CaMn1-xSbxO3の結晶構造、(b)CaMn0.85Sb0.15O3の誘電率εの磁場による変化。

そこで、x = 0.15の試料を作製し、電気抵抗率を測って局所活性化エネルギーの温度変化を調べたところ、実際に電荷整列を示唆する振舞が観測されました。次に、誘電率を測定したところ(図3(b))、113 Kにおいて誘電ピークが観測され、ミクロな電気分極の存在が明らかになりました。さらに、磁場をかけると誘電ピークの高さが大幅に下がることを発見しました。狙い通り、液体窒素温度以上で電気磁気効果を起こすことに成功したのです。

4.メカニズムの解明から、より高機能な物質の提案へ

現在はCaMn0.85Sb0.15O3における電気磁気効果のメカニズムについて調べています。具体的には、Sb置換量つまり電子数を変えた場合や、圧力をかけて電子間相互作用の強さを変えた場合に、誘電ピークの温度や電気磁気効果の強度がどのように変化するかを調べています。その結果、電子数を増やしたり、結晶格子を膨張させた場合に誘電ピーク温度が上昇することが分かってきました。今後さらに研究を進め、より高機能な物質の提案につなげたいと考えています。



<掲載論文>
題名:"Glassy dielectric anomaly and negative magneto-capacitance effect in electron-doped
Ca1-x Srx Mn0.85Sb0.15O3"
著者:H. Taniguchi, H. Takahashi, A. Terui, K. Sadamitsu, Y. Sato, M. Ito, K. Nonaka, S. Kobayashi,
M. Matsukawa, R. Suryanarayanan, N. Sasaki, S. Yamaguchi and T. Watanabe
掲載誌情報:Journal of Applied Physics 127, 184105 (2020).