2025.11.20
県産原料100%ビールがつなぐ地域と未来
農地は地方の暮らしと経済を支える大切な資源です。しかし近年、農業を担う人口の減少に伴い、農地面積が減少し、耕作や管理が行き届かなくなる土地が増えてきています。こうした耕作放棄地は、地域の経済規模そのものを縮めるだけでなく、野生動物の被害や生態系への影響など、地域の営農全体に悪い影響を及ぼすこともあります。
「耕作放棄地が増えていく流れを食い止め、農業で地域に新しい活力を生み出したい」
今回は、そんな思いから立ち上がった岩手大学クラフトビール部の活動をご紹介します。
「なぜビールなのか?」
地方の人口が減っていく中で、農地面積を維持していくためには、少ない労働力でも作付け・生産ができる作物と、また安定的に収益を確保できる仕組みが必要不可欠です。学生達は、それらの条件に合致する作物の選定からはじめました。
世界中で愛されるビールは、日本で最も消費量が多く、人気が高い酒類のひとつです。ビールの奥深い味わいは、麦芽とホップという二つの素材から生まれます。麦芽はビールの骨格をつくり、色や香りを決める大切な存在。そしてホップは苦味や香り、そして泡立ちを与え、ビールに個性を添えます。
学生達はこの麦芽の原料となるビール麦に目を付けました。ビール麦は、他の作物と比較しても少ない労働時間で生産することができ、さらに収益をあげやすいという特性があります。
重要なのは、作物を育てることによって地域に新たな“付加価値”を生み出すこと。その点、ビールは加工・販売・サービスまで含めて付加価値を高めやすく、地域経済を広げるには最適な産業の一つだと捉えたのです。
また、日本のビール製造において、原料の9割以上が輸入によって賄われている状況で、国産原料のみで製造したビールはほぼ市場に出回りません。学生達は、原料を国産化できる余地があること、そして純国産原料によってビールを製造するというストーリ―も新たな価値に繋がると考えました。
岩手×ビールの可能性 県産原料100%ビールへの期待
実は岩手県、ビールの原料であるホップの生産量がなんと日本一(令和6年度現在)という強みを持っています。特に遠野市は、半世紀以上の栽培実績を誇る日本随一の産地。四方を山に囲まれた盆地で、冷害により他の作物は育ちにくい土地でしたが、ホップ栽培には理想的な環境でした。
さらに、県内には小規模ながら複数のブルワリーがあり、ビールイベントも開催されるなど、岩手にはクラフトビール文化が息づいています。
「県産原料100%でクラフトビールを作れたら、地域を豊かにする良い循環が生まれるかもしれない!」
この想いから、クラフトビール部は県産原料100%のビールの製造に向けて動き出しました。
「つなぐビールプロジェクト」始動
2022年12月、クラフトビール部は盛岡市のビールメーカー・ベアレン醸造所と共同で「つなぐビールプロジェクト」を発足。
このプロジェクトは、県内で拡大しつつある遊休地を活用し、ビール原料の栽培拠点をつくることで、農地保全や農業の担い手不足解消を図るとともに、岩手県産原料100%のビールを製造を目指すプロジェクトです。
農家の方々の協力を得ながら、遊休地を利用し陸前高田市や紫波町でビール麦を、そして遠野市ではホップを栽培。もちろん学生たちも種まきから収穫まで自ら現場に入り、農業を学びながら活動を進めました。
岩手県産原料100%クラフトビール、誕生
こうした取り組みの結晶として、2023年1月、ついに岩手県産原料100%のクラフトビール「つなぐビール」が誕生。ベアレン醸造所の直営レストランをはじめ、県内各所で販売され、地域と大学の連携による新しい価値創出としてメディアからも注目を集めました。
飲むたびに岩手と繋がり、そして岩手を豊かにするビールを作りたいと遊休地に飛び込んだ学生達。
種をまき、麦を踏みしめ、遊休地を見事を黄金色に輝かせました。踏みしめた一歩一歩が、地域の豊かさへとつながっています。
自らで種をまき、収穫まで手がけたビールはいったいどのような味わいだったのでしょう。学生たちにとっても、きっと忘れられない一杯なのでしょうね。
これからもクラフトビール部の挑戦は続きます。お楽しみに。