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教員養成と現場の教育を繋げる研究・教育実践の試み

掲載日2020.03.31
最新研究

教育学部 英語教育科
准教授 ホール ジェームズ
英語科教育


私は三つの領域の研究に取り組んでいます。外国語教師成長論、外国語教師教育、外国語教育のカリキュラム開発。これらの研究への関心は、自分の教育の試行錯誤から生まれました。自分の経歴を述べてから、研究紹介をしたいと思います。

英語教育研究の始まり

私はアメリカ合衆国の出身で、元々、JETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)の英語教育助手として日本に来ました。私は、1997年、北海道の地方の中学校に派遣されて、2年間英語を教えていました。当時の私は経験が少なく、生徒の関心を引き、また生徒の学習を促進するような授業を実施するのに苦労しました。私には、次のような思い出があります。ある日、私は中学校の3年生の授業で、教科書のページを朗読していました。生徒が私の後、教科書の文章をリピートしていました。教科書の内容があまり面白くないためか、生徒が小さい声でつまらなそうに私に続いて音読をしていました。私は生徒の関心・興味を少しだけ引こうと思い、急に教卓に飛び上がって、音読を継続しました。しかし、生徒はあまりにもびっくりして、沈黙が流れてしまいました。私は、このような経験を経て、何とか充実した外国語教育を実践したいと思うようになり、私の研究の旅が始まりました。

教員の成長の研究

「外国語教師成長論」は、外国語教師の成長の過程やそういった成長を促す・妨げる要因を探求する研究です。私は、新任の中学校英語教員を研究の対象にしています。机の上に飛び上がるまではしていないと思いますが、私の当時のような気持ちを持っている新任の中学校英語教師は少なくないと思います。例えば、多くの新任教師が「コミュニケーション」を授業に取り入れたいと思っていても、コミュニケーション活動が上手く行きません。私は、新任教師がどのようにしてコミュニカティブ・ランゲージ・テーチング(以下、CLT)を行っているかということに強い関心があります。新任教員の成長を理解するために、実際の授業を観察し、その後、授業者と共に授業を振り返ります。1年半に渡り、定期的に同じ新任教師の授業を観察する研究を行ったこともあります。授業とインタビューのデータから、CLTを実施するにあたって、これらの教師が直面する課題を描く「エピソード」を書き、このエピソードを分析します。教師であっても、どの学校で教えても、CLTを実施するときには何らかの問題に直面します。例として、教科書とコミュニケーション活動の不一致、学級マネジメント等が挙げられます。成功する教師は、これらの問題を深く理解し、自分なりの解決策を見つけ出し、独自の根拠のある教育論を形成します。つまり、「効果的」な外国語教育の在り方は学校と学習者の特徴、教師自身の性格と特技によって異なります。能力のある教師は、自分の専門性を活用し、この専門性を築きながら、現場にあった教育の仕方を開発します。

外国語教師教育の試み

私の二つ目の研究領域は外国語教師教育です。この研究では、私は「考える教師」を育成する教員養成のプログラムを開発しています。前述した新任教員の研究に基づいて、このプログラムでは「考える教師」を「問題解決に取り組める」教師として捉え、CLTを実施するための「問題解決」を「英語科教育法」という授業に取り入れています。「英語科教育法」とは英語の教員免許を取るための必修科目です。図1は、2年の前期から3年の後期まである教育法1から4までの流れを示したものです。各科目は、講義と現場の実践からなっています。学生は、大学で教育方法論について勉強し、これらの理論についての知識を深めるために、現場で、CLTを取り入れた英語の授業を実践します。授業の計画を作成したり実践したりする時、必ず、学生は解決しなければならない課題に出会います。授業の実践の後、学生が自分にとって重要な意味を持つ出来事(クリティカル・インシデント)を説明し、これを通して、自分の「英語教育観」がどのように変わったかについてレポートを書きます。「英語教育観」とは学生が考えている効果的な英語の教え方とその根拠を表す用語です。

学生は、各英語科教育法の中で、起こったクリティカル・インシデント、そして自分の中で形成している「英語教育観」を、各自のe ポートフォリオに載せます。私はルーブリックを使って、学生の「英語教育観」が2年間でどのように変わったかを分析します。

今後、私は英語科教育法のデータも含め、学生の時代と英語教師として働き始めてからの数年間のデータを分析していくつもりです。そうすることにより、大学の教員養成課程での学びと現場での教育実践経験がどのよ
うに教師の成長に影響しているかを研究したいと思います。

外国語カリキュラム開発

私の三つ目の研究分野は外国語教育のカリキュラム開発です。私は毎年、附属小学校や附属中学校と共同研究を行っており、生徒のコミュニケーション力が伸びるように授業の工夫をしています。また、タイ王国の中等学校に学生と訪問し、タイの英語教育の水準を満たす授業を実施しています。さらに、授業を観察するための「授業研究アプリ」をタイの学校と共同で開発しています。

英語を教え始めてから20年以上経ちましたが、45歳になる私は、今でも、教育者として、研究者としてまだ成長しています。私の教育と研究のミッションは、他の教師の成長を促しながら、外国語教師教育、外国語教育に貢献をすることです。私は岩手大学教育学部でこのミッションに取り組むことができて、光栄に思っています。