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パルスパワー:究極の電気エネルギー時空間制御

掲載日2020.03.18
最新研究

理工学部 システム創成工学科
教授 髙木 浩一
電磁エネルギー工学

人の暮らしと電気エネルギー

〝電気(でんき)〞は見えません。でもいつも我々の周りにあります。見上げれば照明があります。蛍光灯かLEDです。電気で光ります。台所には電子レンジやオーブンがあり、これも電気で動きます。電気はエネルギーです。エネルギーには、電気以外に、熱や運動、重力、化学、光などいろんな形があります。電気の一番の特徴は、ほかのエネルギーの形にすぐに変えられる点です。このため電気は我々の生活では欠かせないものになっています。

「パルスパワー」ってなに?

〝パルスパワー〞、一般にはなじみのない言葉だと思います。これは、エネルギー(特に電気エネルギー)を時間的・空間的に圧縮して、短時間・微小空間に大電力・高エネルギー密度状態を作り出し、いろいろな分野に利用する技術を指します。図1はエネルギーの時空間圧縮の概念です。学校の教室で使われている蛍光灯の電力100ワット(W)を100秒だけ貯めます。このエネルギーは1万ジュール(10kJ)です。これを10ナノ秒(10×10-9秒)で取り出します。そのときの電力は、図1に示されているように、1テラワット(1×1012W)と日本で発電される電力の10倍にもなります。これが時間圧縮の概念です。次に、このエネルギーを空間的に圧縮して、100マイクロメートルの箱程度に入れたとします。このエネルギー密度は、1立方メートルあたり1016ジュール(1016J/m3)となります。これは核融合で燃えている太陽のコアと同じエネルギー密度です。すなわち、理論的にはパルスパワーで核融合は可能になります。

パルスパワーが技術・学問的に発展したのは、アメリカのレーガン大統領の頃(1980年代)、戦略構想SDI(Strategic Defense Initiative)、通称スター・ウォーズ計画に伴ってです。この構想では、宇宙空間でミサイルを迎撃するパルスレーザ、粒子ビーム、レールガン(電磁力で飛翔体を加速して打ち出すもの)といった技術が必要となります。その結果、アメリカ、ヨーロッパを中心にパルスパワー研究が発展しました。その後、パルスパワー技術は民生展開され、慣性核融合のドライバーや材料加工用のレーザなど、エネルギー圧縮を必要とする分野で使われるようになりました。現在では、半導体スイッチの性能向上で簡単にパルスパワーが使えるようになり、いろいろな産業で利用されています。パルスパワーと無縁と思われていた農業・食品分野でも、図2のように、利用されようとしています。

図1 エネルギーの時空間圧縮 (九州大学 山形幸彦先生 講義資料)
図2 パルスパワーの農業利用

パルスパワーをつくる・つかう

自然界のパルスパワーとして、かみなりがあげられます。上昇気流で小さな氷を吹き上げて雲の中で摩擦帯電を引き起こし、その電気が十分大きくなったときに、一気に貯めた電荷を放出します。これがかみなりです。まさしく時間的・空間的に、エネルギーを圧縮しています。

図3は、パルスパワー発生の概念を示しています。大きな石を水で動かすことを考えます。池に水があります。これをポンプで引き上げてそのまま石にかけても、水の量が少なく十分な力は得られません。ではどうすれば?高いところに置いた大きな水がめに一度ポンプで水を貯めます。十分に貯まったところで、水がめの底板を一気に引き抜き、貯まった水を落差をつけて、一気に石にあてます。これで石を動かすことができます。人工的にパルスパワーを作り出す場合、水は電荷、水の流れは電流、水を高いところにあげるポンプは高電圧電源に相当します。水がめは電荷を貯める箱でコンデンサ(キャパシタ)、底板はスイッチになります。

パルスパワー装置は、その使用目的に合わせてデザインします。図4は約1mの長さのキノコホダ木に効率よく電気をかけられるように設計したパルスパワー装置とその出力です。コンデンサの充電に使った電源は、100Wくらいです。出力電圧の最大値は約11万ボルト(110kV)で、そのときの電流は500アンペアです。従って、電力は55メガワット(55×106W)と、もとの電源の55万倍に増幅されています。図5は、パルスパワーをかけた場合とかけない場合の、シイタケの収穫量を比較したものです。パルスパワーで増収が確認できます。

図3 パルスパワー発生の考え方
図4 キノコ増産用パルスパワー電源