岩手三陸地域社会と水産業の持続可能性についての研究

掲載日2020.10.05
最新研究

人文社会科学部 地域政策課程
教授 杭田 俊之
理論経済学・地域経済学・三陸復興

地域社会の持続可能性問題

今日の日本社会では人口減少局面に入り、私たちの社会の将来の姿、特にその持続可能性について強く意識させられる時代になりました。地方における人口減少や都市と地方との格差、政策対応としての地方創生の取り組みなど考えるべき問題は山積しています。
なかでも沿岸漁業というなりわいを基盤とした漁村コミュニティが多く見られる岩手三陸沿岸地域では人口減少と少子高齢化が著しく、さらにそれが東日本大震災により加速されました。水産業というなりわいと地域社会の持続性という課題への取り組みは急務となっています。
岩手の沿岸漁業の現状と課題について、なりわいの継承と漁村コミュニティの持続可能性のための条件を研究しています。

漁業者の減少と新規漁業就業者確保問題の研究

研究室では地域経済論という視点から漁村コミュニティの研究を行なっていますが、地元岩手に密着する形で、水産データや資料・文献にもとづきながらもその背景にある地域コミュニティの実態分析を進めています。なかでも海藻類やカキ、ホタテガイなどの海面養殖をなりわいとする漁家経営の現場調査を重点的に継続し、家族経営のマンパワー、養殖規模、四季を通じた船上・陸上の漁労作業負担状況などデータの収集・整理を行なっています。また閉鎖的ともいわれてきた漁村コミュニティにも状況変化が生じつつあり、IターンやUターンの受け入れ可能性についてヒアリングを行ない、新規漁業就業者確保の動向について調査・検討を行なっています。現在、水産施策の制度整備や地域ごとの受け皿づくりが進められていますが道半ばといったところです。

漁業作業分析
漁業作業分析 船上作業
漁業作業分析 陸上作業浜仕事

[文献]
杭田俊之「岩手県における新規就業のケーススタディ  ―現状と定着のための課題―」『北日本漁業 第46号』(北日本漁業経済学会)、pp. 48-56、2018年。
杭田俊之「岩手の水産業復興 ―なりわいと地域社会の持続性―」庄司美樹・新里泰孝・橋本勝編著『アクティブラーニングで学ぶ震災・復興学 放射線・原発・震災そして復興への道』第11章所収、pp. 124-36、六花出版、2020年。

地域とのつながり、漁業者とのつながり

地域フィールド研究に際してそのスタイルには様々あります。統計データの収集と分析、行政や関係機関への聞き取り、現場漁業者へのヒアリングなど学問的には基本的なものですが外部からの観察といった側面が強くなります。それに加えて現場に入り、作業体験させてもらいながら意見交換を行なったり、地域の行事、イベント、祭りへの参加も含めて地域コミュニティのなかでみずから体験したりして、交流やつながりを重ねるなかで実態がつかみとれるという局面もあります。研究室の学生とともに現場に入り、問題視点を共有するという「内部観測」の実践も行っているところが、地元大学の強みを生かしている研究といえるでしょう。
地域プレイヤーとしてなにがしか活動する事例としては、漁業者の協力で食材提供を受けこども食堂への運営協力や魚食普及活動の実践、水産物活用としてエゾアイナメ(どんこ)を使った久慈市での「どんこドッグ」の開発などがあり、多面的な実践によって地域理解を深めています。

子ども食堂での貝殻アートイベント
久慈どんこドッグキッチンカー

地域づくり、地域政策のためのフィードバック

沿岸漁業を基盤としてなりわいと居住が重なり合うような漁村コミュニティの担い手は、漁業者であるだけでなく、消防団を核とした防災組織、文化・芸能・祭りの伝承団体、漁協内部の女性組織、教育や地域福祉といった問題を共有しています。地域の一課題に見える漁業担い手の確保という問題も、実は水産政策にとどまらず地域づくりの課題として推進するべき段階に入っているという見解から調査研究と政策提言等を行なっています。

大船渡漁業士研修会

[講演]
「新規漁業就業者の確保と定着のための課題 ―漁協と地域の役割―」岩手県漁連漁協役員・参事研修会、岩手産業文化センター、2018年2月9日。
「希望の持てる all for all の地域づくり」連合岩手震災復興&クラシノソコアゲ 地域フォーラムin 釜石、釜石情報交流センター・釜石PIT、2019年4月13日。
「沿岸漁業と地元コミュニティの持続可能性のために --白浜浦調査をもとに--」水産・海洋研究セミナーin釜石、釜石情報交流センター・釜石PIT、2019年8月30日。
「漁業後継者問題を考える 新規就業者確保対策の現状と課題」岩手県漁業士会大船渡支部研修会、おおふなぽーと、2020年1月31日。