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細胞内で生じた有害物質を無毒化する新しい酵素を発見 ―糖尿病など糖化ストレス関連疾患治療薬の創出に新たな可能性―

掲載日2023.05.22
最新研究

理工学部 化学・生命理工学科 生命コース
准教授 尾﨑 拓
生化学、細胞生物学、動物生理学

概要

岩手大学 理工学部 化学・生命理工学科 生命コースの尾﨑拓准教授の研究チームは、細胞内のミトコンドリアに存在するES1タンパク質が、細胞にとって毒性のある反応性ジカルボニル化合物を無毒な化合物へ代謝することを明らかにしました。反応性ジカルボニル化合物の蓄積は、糖尿病をはじめとする糖化ストレス関連疾患を引き起こす原因となることから、本研究成果により、糖化ストレス関連疾患の発症機構を解明し治療薬を創出できる新たな可能性が見出されました。
本研究成果は、令和5年5月15日にエルゼビアが発刊する著名な国際学術誌BBA Advancesより全世界へ公開されました。なお、この研究は岩手大学と弘前大学、岩手医科大学の共同研究より生まれた研究成果です。

研究成果

生物のすべての細胞は、ブドウ糖(グルコース)を燃料にして生命活動に必要なエネルギーを作っています。しかしながら、糖は細胞内に存在するタンパク質などの機能分子と結合してそれらを失活させてしまうことがあります。この反応による生体への影響は糖化ストレスと呼ばれ、糖尿病、パーキンソン病やアルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患、加齢性疾患、がん等の原因の1つとされています。糖化ストレスの主な原因となる反応性ジカルボニル化合物は解糖系の副産物として生成され、その高い反応性によりタンパク質等の変性を引き起こすため、これらの化合物を無毒化する酵素が存在しています。これまで、主なジカルボニル代謝経路としてグリオキサラーゼ(GLO)系が知られています。この中にはグルタチオン依存的に代謝するGLO1とGLO2、グルタチオン非依存的に代謝するGLO3が存在しています。GLO系を含む既知のジカルボニル代謝経路は細胞質に存在することは分かっていましたが、細胞内におけるエネルギー生産の場であるミトコンドリア内のジカルボニル代謝機構は未解明のままでした。
2020年に尾﨑拓准教授の研究チームは、眼の網膜においてミトコンドリアにES1タンパク質が存在することを発見し、国際学術誌BBRCに掲載されました(BBRC, 524, 542-548, 2020)。本研究において、細胞内ミトコンドリアに存在する機能不明のタンパク質ES1の機能を解析したところ、反応性ジカルボニル化合物の1つであるグリオキサールを無害なグリコール酸へ代謝することを明らかにしました。ES1を標的分子として、糖尿病や脳神経変性疾患、加齢性疾患などの糖化ストレス関連疾患の発症機構を解明することにより、新たな治療方法の開発に一筋の明るい光が差し込みました。
今後、尾﨑拓准教授の研究チームは、ミトコンドリアにおけるジカルボニル代謝経路の全貌を解明して、糖化ストレス関連疾患の発症機序解明と治療薬開発へと展開します。

図)ミトコンドリアにおけるES1を介したジカルボニル代謝機構

掲載論文

題 目:Novel dicarbonyl metabolic pathway via mitochondrial ES1 possessing glyoxalase III activity
著 者:Ginga Ito(伊藤 銀河・岩手大学大学院理工学研究科 博士課程2年), Yota Tatara(多田羅 洋太・弘前大学大学院医学研究科), Ken Itoh(伊東 健・弘前大学大学院医学研究科), Miwa Yamada(山田 美和・岩手大学農学部), Tetsuro Yamashita(山下 哲郎・岩手大学農学部), Kimitoshi Sakamoto(坂元 君年・弘前大学農学生命科学部), Takayuki Nozaki(野崎 貴介・岩手医科大学医歯薬総合研究所), Kinji Ishida(石田 欣二・岩手医科大学医歯薬総合研究所), Yui Wake(和家 由依・岩手大学大学院総合科学研究科 修士課程2年[当時]), Takehito Kaneko(金子 武人・岩手大学理工学部), Tomokazu Fukuda(福田 智一・岩手大学理工学部), Eriko Sugano(菅野 江里子・岩手大学理工学部), Hiroshi Tomita(冨田 浩史・岩手大学理工学部), Taku Ozaki(尾﨑 拓・岩手大学理工学部)
誌 名:BBA Advances
公表日:2023年5月15日

本件に関する問い合わせ先

岩手大学 理工学部 化学・生命理工学科 生命コース
准教授 尾﨑 拓
019-621-6349
tozaki@iwate-u.ac.jp