農学部 共同獣医学科
准教授 中牟田 信明
獣医解剖学
岩手大学農学部中牟田准教授らの研究グループは、ウミガメの嗅覚器における嗅覚受容体の発現をin situハイブリダイゼーション解析によって明らかにしました。上憩室上皮と下憩室上皮からなるカメの嗅覚器のうち、これまで水中の匂いを受容すると考えられていた下憩室上皮では、空気中の匂いも受容していることが揮発性の匂い物質に親和性の高い受容体の発現によって示唆されました。
本研究成果は、2023年6月2日にCell and Tissue Researchに掲載されました。今後は「カメの鼻プロジェクト」として半水生カメや陸生カメの嗅覚器における研究が展開されます。
なお、この研究は名古屋港水族館との共同研究により生まれた研究成果です。
カメの嗅覚器には上憩室上皮と下憩室上皮が区別され、上憩室上皮では空気中の匂い、下憩室上皮では水中の匂いを受容すると考えられています。嗅細胞は鼻粘膜を構成する細胞の1つで、個々の嗅細胞はゲノム中に存在する多数の嗅覚受容体遺伝子の中からたった1つを選んで発現しています。一般に、カメの嗅覚器に発現する主要な嗅覚受容体が匂い受容体(OR)であることは以前から知られていましたが、各OR遺伝子を発現した細胞が嗅覚器のどこに分布しているかは不明なままでした。
アオウミガメのもつ159のクラスⅠORと95のクラスⅡORの中から、クラスⅠORとクラスⅡORを5つずつ選び、嗅覚器における発現をin situハイブリダイゼーションによって解析した結果、クラスⅠORは下憩室上皮に発現し、クラスⅡORは上憩室上皮と下憩室上皮の両方に発現していることが明らかになりました。さらに、ほとんどの嗅細胞がORを発現し、OR以外の嗅覚受容体がごく一部の嗅細胞にしか発現していないことも確かめられました。
水溶性の匂い物質に親和性が高いクラスⅠORが下憩室上皮に発現していることは、下憩室上皮で水中の匂いがクラスⅠORを介して受容されることを示唆しています。一方、揮発性の匂い物質に親和性が高いクラスⅡORが上憩室上皮だけでなく下憩室上皮にも発現していることは、空気中の匂いを受容すると考えられていた上憩室上皮だけでなく、水中の匂いを受容すると考えられていた下憩室上皮でも空気中の匂いがクラスⅡORを介して受容されることを示唆しています。
さらに、カメ以外の動物では線毛性嗅細胞に発現しているORが、線毛性嗅細胞が分布する上憩室上皮だけでなく、微絨毛性嗅細胞が分布する下憩室上皮にも発現していることから、カメの嗅覚器が他に類を見ない特徴をもっていることが示唆されました。
今後、中牟田准教授らは「カメの鼻プロジェクト」を展開して半水生のカメや陸生のカメにおける嗅覚受容体の発現を解析し、生息環境と嗅覚受容体発現との関係や、嗅細胞の微細形態学的特徴と嗅覚受容体発現に関わる謎の解明に取り組みます。
題 目:In situ hybridization analysis of olfactory receptor expression in the sea turtle olfactory organ
著 者:Shoko Nakamuta(中牟田 祥子・岩手大学農学部 特任研究員), Masanori Mori(森 昌範・名古屋港水族館), Miho Ito(伊藤 美穂・名古屋港水族館), Masanori Kurita(栗田 正徳・名古屋港水族館), Masao Miyazaki(宮崎 雅雄・岩手大学農学部), Yoshio Yamamoto(山本 欣郎・岩手大学農学部), Nobuaki Nakamuta(中牟田 信明・岩手大学農学部)
誌 名:Cell and Tissue Research
公表日:2023年6月2日
DOI:
https://doi.org/10.1007/s00441-023-03782-6
*カメの鼻プロジェクト: https://www.facebook.com/pjt.turtle.nose/