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バイドメイン方程式の数理構造の解析

掲載日2023.07.26
最新研究

理工学部 物理・材料理工学科
准教授 奈良 光紀
数理科学

概要

岩手大学理工学部奈良光紀准教授らの研究グループは、心臓の電気生理を記述する数理モデルであるバイドメイン方程式の理論研究において、新たな結果を示しました。帯状領域でのAllen-Cahn型バイドメイン方程式に現れる平面波解の非線形安定性に関し、未解明の性質を明らかにしました。
なおこの研究は明治大学・ペンシルバニア大学・岩手大学の共同研究により生まれた成果です。本研究成果は、2023年5月24日にSIAM Journal on Mathematical Analysisに掲載されました。

背景

1950年代に、神経組織における活動電位の生成メカニズムについて、A.L.HodgkinとA.F.Huxleyによる数理モデルが提唱されました。心筋組織においても同様のメカニズムが機能していますが、1970年代に心筋細胞の電気伝導度の空間異方性を考慮した数理モデルとして、バイドメインモデルが提案されました。バイドメインモデルについては、これまで数値シミュレーションを用いた研究が数多く行われていますが、方程式の定性的性質については理論面での取り扱いの難しさから研究が難航している状況がありました。しかし2016年に、Mori-Matano[1]によって、Allen-Cahn型バイドメイン方程式における平面波の安定性に関する新規性の高い結果が発表されました。これにより、細胞内外の電気伝導度の異方性を表す正定値2次対称行列から定まるフランク図形と、長波長摂動に対する線形安定性の関係などが明らかにされましたが、平面波の非線形安定性については未解明でした。

研究成果

本研究では、Allen-Cahn型バイドメイン方程式を無限帯状領域で考え、平面波の非線形安定性に関する新たな結果を得ました。無限に伸びる帯状領域の方向とその方向におけるフランク図形の凸性、および帯状領域の幅が、平面波の漸近安定性や非線形不安定性において本質的な条件であることを明らかにしました。また、バイドメイン方程式の基本解の正値性に関して、経験的に知られていた事実に厳密な証明を与えました。現在、帯状領域の幅により平面波の安定性が変化する現象について、分岐理論の観点から理論的に考察しています。今後は、FitzHugh-Nagumo型バイドメイン方程式や、Hodgkin-Huxley型バイドメイン方程式におけるパルス解について解析する予定です。

掲載論文

題 目:Stability of Front Solutions of the Bidomain Allen–Cahn Equation on an Infinite Strip
著 者:Hiroshi Matano (俣野 博・明治大学 特任教授), Yoichiro Mori (森 洋一朗・ペンシルベニア大学 教授), Mitsunori Nara (奈良 光紀・岩手大学理工学部 准教授)
誌 名:SIAM Journal on Mathematical Analysis
公表日:2023年5月24日
DOI : 10.1137/21M1418095

本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました。

  • JSPS科研費17K18732・挑戦的研究(萌芽)「バイドメイン方程式の数理構造の解明」(研究代表者:俣野 博)
  • National Science Foundation grant DMS 2042144 and a Math+X grant from the Simons Foundation (森 洋一朗)
  • JSPS科研費19K03556・基盤研究(C)「非等方性を持つ非線形偏微分方程式における界面ダイナミクスの解析」(奈良 光紀)

参考文献

  1. Yoichiro Mori, Hiroshi Matano, Comm. Pure Appl. Math. (2016). doi:10.1002/cpa.21634
本件に関するお問い合わせ

理工学部 物理・材料理工学科
准教授 奈良 光紀
019-621-6804
nara@iwate-u.ac.jp