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ゲノム編集動物の作製成功率を予測・向上できるシステムの開発に成功~Cas9タンパクの受精卵内での存在場所がゲノム編集動物作製の成功率を向上させるカギであることを突き止めた

掲載日2023.10.30
最新研究

理工学部 化学・生命理工学科 生命コース
准教授 金子武人
実験動物学、動物繁殖学、野生動物保全学

概要

岩手大学理工学部 金子武人准教授らの研究グループは、CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集動物を作製する際に用いるCas9タンパクを可視化させることで受精卵内での存在場所を特定し、その存在場所が作製成功率の向上に大きく関係していることを突き止めました。
本研究結果により、受精卵の段階でゲノム編集動物作製の成功率の予想が可能となり、核内にCas9タンパクが十分に存在する受精卵のみを選抜できるため、さらに成功率を向上させることができます。また、産まれてきた動物がゲノム編集されていない場合は研究に利用されないことから、成功率の高い受精卵の選抜は、無駄な動物の生産を回避できるだけでなく出産数の少ない動物の効率的な生産にも活用できるため、動物福祉の観点から3Rsにも貢献するものです。
本研究成果は、令和5年10月27日(英国時間)にエルゼビア社が発刊する国際学術雑誌『Biochemical and Biophysical Research Communications (BBRC)』に掲載されました。

背景

ゲノム編集技術は、動物にも応用されており、現在ゲノム編集動物はヒトの疾患に関連した遺伝子の機能解明や予防・治療法の開発に用いられています。これまでいくつかのゲノム編集技術が開発されてきましたが、現在は扱いやすいCRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集技術が主流で、この方法を用いてゲノム編集動物も作製されています。通常、ゲノム編集動物の作製では、受精卵の段階でCRISPR/Cas9システムの核酸を導入し、目的遺伝子を改変します。改変された受精卵を雌の子宮に着床させ産子が作製されます。これまで多くの系統が、この方法で作製されてきましたが、何が成功率の向上に関与しているのかは検討されていませんでした。
本研究グループは、エレクトロポレーション法により受精卵に簡易に核酸を導入し高率にゲノム編集動物を作製できる技術(テイク法、特許取得済)( http://web.cc.iwate-u.ac.jp/~takehito/take.html)の開発に成功しました。しかしながら、導入した核酸が受精卵内でどのように存在し機能しているのかはこれまで不明でした。そこで本研究グループは、蛍光標識したCas9タンパクをマウス受精卵に導入することで存在場所を突き止め、成功率にどのように影響するのかを調べました。

研究内容・成果

まず、本研究グループはCRISPR/Cas9システムの核酸のCas9タンパクを可視化するために、蛍光標識としてGFPタンパクを付加したCas9タンパクを用意しました。さらに、この核酸に核移行シグナル(NLS)を付加したCas9-GFPタンパクを用意しました。本実験では、チロシナーゼ遺伝子を目的遺伝子として標的にしました。この核酸をマウスの受精卵にテイク法を用いて導入しました。核酸を導入した受精卵を蛍光顕微鏡で観察し、導入核酸の存在場所および蛍光強度を測定しました。さらに受精卵は雌の子宮に移植することで産子に発生させました。
その結果、NLSを付加したCas9タンパクは受精卵内で細胞質から核内に多く移動していることが観察され、強い蛍光強度を示しました。一方、NLSを付加しないCas9タンパクは、核内への移動は観察されませんでした。NLSを付加したCas9タンパクを導入した受精卵から得られた産子は、NLSを付加しないCas9タンパクを導入した受精卵から得られた産子よりも有意に高い遺伝子改変率を示しました。このことから、Cas9タンパクの核内への移動が成功率の向上に大きく関与していることを突き止めました。

今後の展開

本研究結果により、受精卵の段階でゲノム編集動物作製の成功率の予想が可能となり、核内にCas9タンパクが十分に存在する受精卵のみを選抜できるため、さらに成功率を向上させることができます。また、産まれてきた動物がゲノム編集されていない場合は研究に利用されないことから、成功率の高い受精卵の選抜は、無駄な動物の生産を回避できるだけでなく出産数の少ない動物の効率的な生産にも活用できるため、動物福祉の観点から3Rsにも貢献するものです。

研究概要

掲載論文

題目

Importance of nuclear localization signal-fused Cas9 in the production of genome-edited mice via embryo electroporation

著者

新沼さくら 岩手大学大学院総合科学研究科理工学専攻
和家由依  岩手大学大学院総合科学研究科理工学専攻(当時)
中川優貴 岩手大学理工学部 特任研究員
金子武人 岩手大学理工学部・大学院理工学研究科 准教授

誌名

Biochemical and Biophysical Research Communications (BBRC)(エルゼビア社)

URL

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006291X23012342

doi

10.1016/j.bbrc.2023.149140

関連ホームページ

動物生殖・発生学(金子)研究室 http://web.cc.iwate-u.ac.jp/~takehito/