香りをアレンジする装置 アロマデザイナーの開発

掲載日2024.03.13
最新研究

農学部 応用生物化学科
教授 宮崎雅雄
分子生体機能学

岩手大学は、株式会社島津製作所と、果物など天然物が放つ香りを自在にアレンジできる「アロマデザイナー」を共同開発しました。これは岩手大学農学部宮崎雅雄教授、同大小原紀大学院生、上野山怜子大学院生らと島津製作所分析計測事業部による研究成果です。
天然物の香りは、数十から数百もの化学物質が複雑な組成で混ざり合って形成されています。そのため研究開発時に、たくさんの化学物質を調合して天然物の香りを再現したり、混合物の中で特定の成分だけを増やしたり減らしたりしたら香りにどのような変化か生じるか調べることが容易にできませんでした。今回開発したアロマデザイナーは、これらの問題点を全て解決でき、香り形成に重要な化学物質の同定に大きな威力を発揮します。結果、食品香料や家庭で一般的に使われる芳香剤・消臭剤などの開発、環境や工業製品の異臭の原因究明など私達の暮らしに役立つ様々な成果が得られると期待されます。さらに、ネコが大好物とするマタタビから新たな有効成分を探索する基礎研究にも活用できます。
本研究は、オックスフォード大学出版局が出版する科学雑誌「Chemical Senses」に令和6年2月22日に電子版で先行公開されました。

私たちの身近に存在する食料品や飲料、芳香剤や消臭剤等の雑貨品には、様々な香料が含まれています。一般に香料は、花や草木、果物等が発する天然物のにおい(香気)に似せて作られます。天然物が発する香気は、数十から数百もの化学物質が複雑な組成比で混ざり合って形成されていて、化学物質の種類や組成比の違いで多様な香気が形成されます。しかし天然物から発せられる全ての化学物質が香気形成に重要なわけではありません。たくさん存在する化学物質の中には、香気にほとんど寄与しない成分や全く寄与していない成分も多数含まれます。よって、香料の開発現場では、天然物が発する化学物質の中から、香気形成に重要な化学物質だけを効率的に同定したいという要望が常に生じています。またこのような技術は、食品や工業製品の異臭の原因究明や動物のフェロモン同定など基礎研究分野でも切望されています。

島津製作所から特注品として販売されているアロマデザイナー

当該分野では、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)という分析装置が多用されています。これは、香料の成分をカラムと呼ばれる部分でバラバラにして、分離された成分ごとに質量分析計に導入して化学構造を同定する装置です。GC/MSを使えば、香料を形成する各成分の化学構造の情報とそれが単体でどのような香気を持つか調べることができます。しかし混合物の中で、それが全体の香気形成にどの程度重要なのかまで調べることはできません。そこで既存のGC/MSを改良して、香気形成に重要な化学物質を簡単に同定できる画期的な分析装置「アロマデザイナー」を開発しました。これは、天然物の香気成分の組成を自在にアレンジでき、例えば香気からある化学物質が消失したらどのような香りになるか、ある化学物質が別の化学物質に置き換わったらどのような香り変化が生じるか、官能評価するための香り試料を容易に準備できます。

現在このアロマデザイナーは、島津製作所が特注品として販売しておりますが、製品化にも取り組む予定です。

掲載誌:Chemical Senses(2024年49巻)
論文名:Development of the gas chromatography/mass spectrometry-based aroma designer capable of modifying volatile chemical compositions in complex odors
著者:小原紀、上野山怜子、小畑雄太郎、宮崎雅雄
DOI番号: https://doi.org/10.1093/chemse/bjae007

本件に関する問い合わせ先

農学部 応用生物化学科 分子生体機能学研究室
教授 宮崎雅雄
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E-mail mmasao@iwate-u.ac.jp