研究支援・産学連携センター
准教授 木村 毅
有機典型元素化学、機能性色素化学
本学研究支援・産学連携センターの木村毅准教授と近畿大学理工学部の仲程司博士の研究グループは、ジセレニドを含む4員環(ジセレネット)が縮環したサブフタロシアニンを合成し、その電気化学的な性質を明らかにしました。ジセレネット環は通常不安定ですが、以前報告したベンゾジセレネット(1)に加え、フッ素を置換したサブフタロシアニン骨格に縮環した場合にも安定化できることがわかりました。本成果により、サブフタロシアニンの特徴である14π電子系とジセレネット骨格のそれぞれの安定化の解明が期待できます。
サブフタロシアニンは3つのイソインドリンとホウ素原子から構成されるフタロシアニン関連化合物です。この化合物は14π電子系を有し、ボウル型の構造をしていることから、その安定性、光学的性質、電気化学的性質等に興味が持たれています。一方、ベンゼン環にジセレニドを含む4員環が縮環したベンゾジセレネットは不安定ですが、当研究室では2つのニトリル基(-CN)と2つのエチル基(-Et = -C₂H₅)を置換することにより安定な化合物(1)として単離することができました。今回著者らは、ニトリル基の部分にサブフタロシアニン骨格を導入した場合のジセレネット環の安定性に興味を持ち研究を行いました。
本研究ではジセレネット環を縮環したサブフタロシアニン(4)を合成するため、トリセレノール環を縮環したサブフタロシアニン(3)を合成した後、環縮小反応により化合物(4)を得る計画をたてました。化合物(2)は1,4-ジエチルベンゼン(5)を出発物質とし化合物(1)を経由して合成しました(式1)。次に化合物(2)とテトラフルオロフタロニトリル(5)を3塩化ホウ素と反応させることにより化合物(3)が得られました(式2)。予期しなかったことに、この反応ではトリセレノール環が環縮小した目的化合物(4)も得られました。化合物(4)と1電子酸化剤(SbCl₅)、及び1電子還元剤(Na)との反応では、対応するラジカルカチオンとラジカルアニオンを生成できました(式3)。これらの化合物はESRスペクトルで観測することができました(図1)。
本研究ではジセレネット環を縮環したサブフタロシアニン(4)を合成することができました。今後はサブフタロシアニン部分をフタロシアニンに変更した化合物を合成し、同様に電気化学的な性質の解明を行います。これらの研究は有機磁性体や有機半導体の開発に寄与できると考えています。
題目:Preparation and Optical and Electrochemical Properties of Boron (III) Octafluorosubphthalocyanines with One Triselenole and One Diselenet Ring
著者:Takeshi Kimura and Tsukasa Nakahodo
誌名:Chemistry A European Journal
公表日:2024.8.2
研究支援・産学連携センター
准教授 木村 毅
019-621-6858
kimura@iwate-u.ac.jp