教育学部、総合科学研究科、理工学研究科
教授 馬渡健太郎
素粒子物理学
岩手大学教育学部馬渡健太郎教授の研究グループは、将来の高エネルギー電子・陽電子コライダーにおけるW粒子対生成を、最近提案されたゲージ固定、ファインマンダイアグラム(FD)ゲージを用いて再解析しました。
FDゲージを用いた散乱振幅は、従来のユニタリーゲージで問題となっている個々のエネルギー増大が無く、南部・ゴールドストーン粒子の寄与が明らかであることを示しました。また、W粒子生成角度分布が個々の振幅の性質として解釈可能であることを説明しました。
本成果により、ゲージ理論の理解が深まり、また国際リニアコライダー(ILC)等における新物理探索への手掛かりが見込まれます。
W粒子は原子核のβ崩壊を引き起こす弱い力を媒介するゲージ粒子です。欧州原子核研究機構(CERN)で1990年代後半に行われた電子・陽電子コライダーLEP-II実験でW粒子対生成が観測され、素粒子標準理論の根幹を成す電弱統一理論の確固たる礎が築かれました。
電磁気学と同様に、素粒子反応の計算ではゲージ固定が必要で、これまでユニタリー(U)ゲージが一般的に用いられてきました。Uゲージでは縦波偏極したW粒子生成の個々の散乱振幅は衝突エネルギーとともに増大しますが、振幅間の相殺により散乱過程のユニタリー性が保たれます。しかし、高エネルギー散乱シミュレーションにおいてはこの相殺が問題を引き起こすことが知られています。
馬渡健太郎教授は研究グループのメンバー、Zheng Yajuan氏(特任研究員)、古里寛之氏(博士学生)、鈴木勇太郎氏(修士修了)と共同で、電子・陽電子散乱におけるW粒子対生成のファインマン振幅(図1)を、萩原(高エネルギー加速器研究機構)、馬渡らが最近提案したゲージ固定、ファインマンダイアグラム(FD)ゲージを用いて解析的に計算し、従来のユニタリー(U)ゲージにおける振幅との比較を行いました。
本研究では、Uゲージにおける縦波偏極したW粒子対生成で見られる個々の振幅のエネルギー増大が(図2点線)、FDゲージを用いた振幅では全く無いことを示しました(図2破線)。またγ、Z振幅(赤、青破線)は南部・ゴールドストーン粒子の寄与が主であることも説明しています。論文ではさらに、W粒子生成角度分布が個々の振幅の性質として解釈可能であることも示しています。
FDゲージを用いた散乱振幅の解析的な計算は世界初で、ゲージ理論の理解が深まることが期待されます。また、個々の振幅の物理的解釈が可能となったことにより、国際リニアコライダー(ILC)等における新物理探索への手掛かりが見込まれます。
題目:W-boson pair production at lepton colliders in the Feynman-diagram gauge
著者:Hiroyuki Furusato, Kentarou Mawatari, Yutaro Suzuki, Ya-Juan Zheng
誌名:Physical Review D
公表日:2024年9月10日
URL:
https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevD.110.053005
DOI: 10.1103/PhysRevD.110.053005
本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました。
・文部科学省科学研究費補助金・基盤研究(B)「21H01077」研究代表者:馬渡 健太郎
・文部科学省科学研究費補助金・基盤研究(C)「23K03403」研究代表者:Zheng Yajuan
岩手大学 教育学部 理科教育科
教授 馬渡健太郎
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mawatari@iwate-u.ac.jp