
教育学部
奥平柾道
スポーツ科学、発育発達
岩手大学教育学部の奥平柾道講師、中京大学スポーツ科学部の渡邊航平教授らの研究グループは、7歳から18歳の男子サッカー選手を対象に、走能力の発達と身体的成熟の関係を調査し、成熟のピークを過ぎた特定の時期を境に、いわゆる「脚の速さ」を決める要因が劇的に変化することを明らかにしました。
本研究では、身長が最も伸びる年齢(PHV)からの経過年数を用いて解析を行いました。その結果、PHVの約1.1年後(+1.1年)に発達の「転換点(ブレークポイント)」が存在し、それ以前は主に脚の長さ(身体形態)が、それ以降は筋力や筋肉の厚さ(神経筋機能)が、走能力を決定する主要因になることが判明しました。これは、成長期の前半は身体の大きさがパフォーマンス向上に直結するのに対し、後半では神経系や筋機能の向上がより重要になるという、発育段階に応じた決定要因の「シフト」が起きていることを示唆しています。
本成果により、子どもの発育段階を見極めた上でのトレーニング処方や、将来性を見据えたタレント発掘への応用が見込まれ、科学的根拠に基づいた長期的なアスリート育成システムの構築に向けて重要な知見になります。
子どもの走能力は、発育発達に伴い著しく向上しますが、思春期周辺でその向上が停滞する現象が知られています。これまで、走る速さを決定する要因として「脚の長さ(ストライド)」や「脚の回転数(ピッチ)」の重要性が議論されてきましたが、これらが身体の成熟(生物学的年齢)に伴いどのように変化し、どの時期に決定要因が切り替わるのかについては十分な科学的知見が得られていませんでした。特に、身長が急激に伸びる時期(成長スパート)の前と後で、身体的特徴や筋力が走能力に与える影響がどう変化するのかは未解明でした。
7歳から18歳の男子サッカー選手98名を対象に、身体的成熟度と走能力の関係を横断的に調査しました。実験では、30m走のタイム計測および高速度カメラを用いた動作解析に加え、超音波画像診断装置による大腿部(外側広筋・中間広筋)の筋厚測定、および膝伸展筋力の測定を行いました。解析にあたっては、暦年齢ではなく、身長が最も伸びる年齢(PHV)からの経過年数(Maturity Offset)を算出し、発達の傾向が変化する「転換点(ブレークポイント)」を統計学的に探索しました。
解析の結果、走速度の発達における転換点(ブレークポイント)が、PHVの約1.1年後(+1.1年)に存在することが明らかになりました。この時期を境に、脚の速さを決定する要因が劇的に変化していました。ブレークポイント以前(PHV+1.1年未満)では、主に「脚の長さ」がストライドを伸ばすことで速度を高めていましたが、ブレークポイント以降(PHV+1.1年以降)では、脚の長さによる影響が低下し、代わりに「筋力」や「筋厚」といった神経筋機能の高さが、ピッチを高めることで速度を決定づける主要因になることが判明しました。
本研究により、成長期の子どもの走能力は、ある時期を境に「身体の大きさ依存」から「筋機能依存」へと決定要因がシフトすることが示されました。この知見は、タレント発掘において早熟な子どもの身体的有利さを過大評価しないための指標となるほか、トレーニング処方への応用が期待されます。具体的には、転換点以前は身体操作や動作スキルの習得を優先し、転換点以降に本格的な筋力トレーニングを導入するなど、個々の成熟段階に合わせた最適かつ効果的な長期育成プログラムの構築に貢献するものです。
掲載論文
題目:Determinants of Sprint Ability Change During Maturation in Developing Children.
著者:Masamichi Okudaira, Ryosuke Takeda, Tetsuya Hirono, Taichi Nishikawa, Shun Kunugi, Kaito Igawa, Saeko Ueda, Yukiko Mita, Kohei Watanabe.
誌名:European Journal of Sport Science
公表日:2026年1月23日(Accepted date)/ 2026年1月30日オンライン版掲載
本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました。
・日本学術振興会 科学研究費助成事業 研究活動スタート支援「神経系機能の発達過程に着目した子どもの疾走能力を規定する要因の解明」研究代表者:奥平柾道