
農学部 生命科学科
教授 宮崎雅雄
分子生体機能学
「なぜうちのネコはごはんを完食しないのか?」。日常の中の素朴な疑問に対し、国立大学法人岩手大学の研究グループは、「嗅覚」という視点から新たな答えを示しました。
ネコが餌を食べ残す姿は、多くの飼い主にとって見慣れた光景です。これまで「野生時代の本能によるもの」「もともと少食だから」「気まぐれだから」などと受け止められてきましたが、その仕組みはよく分かっていませんでした。岩手大学農学部の宮崎雅雄教授、高橋巧大学院生らの研究グループは、ネコが食事をやめる理由に、「満腹」だけでなく「匂い」が深く関わっていることを明らかにしました。
研究では、同じ餌を繰り返し与えるとネコの摂食量は徐々に低下する一方で、異なる餌を提示すると、再び摂食量が回復することを確認しました。さらに、実際に餌そのものを変えなくても、「匂いだけ」を変えることで摂食量が回復しました。また、食事の合間にも同じ餌の匂いを嗅がせ続けると、その後の摂食量は低下しましたが、この低下は別の餌の匂いを嗅がせることで防ぐことができました。
これらの結果は、ネコが食べるのをやめる理由が単なる満腹だけではなく、同じ匂いに慣れることで食欲が一時的に低下し、新しい匂いによって再び食欲が引き起こされることを示しています。すなわち、匂いへの慣れ(嗅覚順応)とその解除が、ネコの摂食行動を調節していることが明らかになりました。
ネコは一般に、1日に何度も少量ずつ餌を食べる「少量頻回摂食」を示すことが知られています。本研究は、このネコ特有の摂食行動の背景に、嗅覚による感覚的な調節機構が大きく関与している可能性を初めて実験的に示したものです。
本成果は、ネコの摂食行動の理解を深めるだけでなく、食欲が低下したネコへの新たな給餌戦略や、ペットフードの設計への応用にもつながることが期待されます。
研究成果は、学術出版社エルゼビア社が発行する「Physiology & Behavior」に、令和8年4月1日(日本時間)に電子版で早期公開されました。
【論文情報】
著者: 高橋巧、市沢翔太、菊池紗楽、原七海、上野山怜子、宮崎珠子、宮崎雅雄
タイトル: Olfactory habituation and dishabituation dynamically regulate feeding motivation in domestic cats
雑誌: Physiology & Behavior
DOI: 10.1016/j.physbeh.2026.115328