
獣医学部
中牟田信明
獣医解剖学
岩手大学獣医学部の中牟田信明准教授らは、東京科学大学の二階堂雅人教授らとの共同研究により、肺魚嗅覚器におけるV2R(2型鋤鼻受容体)遺伝子の発現を解析し、二つの嗅覚器が成長に伴って機能分化する過程を明らかにしました。多くの四足動物は、嗅上皮と鋤鼻器という2つの嗅覚器をもっています。一方、四足動物に最も近縁な魚類である肺魚には、ひだ状の嗅上皮(ラメラ嗅上皮)と、鋤鼻器の起源と考えられる陥凹部上皮が存在します。嗅覚受容体の一種であるV2Rは、四足動物では主に鋤鼻器で働きますが、肺魚では、V2Rはラメラ嗅上皮に特異的に発現するもの、陥凹部上皮に特異的に発現するもの、両組織に共通して発現するものに分類されます。
本研究では、体のサイズが異なる肺魚間でV2Rの発現を比較しました。その結果、体の小さな個体で両方の組織に発現しているV2Rの一部は、大きな個体では陥凹部上皮にしか発現していないことが明らかになりました。これらの結果から、幼若個体では二つの嗅覚器の機能分化は十分ではなく、成長に伴ってより明瞭になることが示されました。これらの知見は、脊椎動物における二重嗅覚系の成立過程を理解する上で重要な手がかりになると期待されます。
多くの四足動物は、嗅上皮と鋤鼻器という2つの異なる嗅覚器を有しています(図1)。魚類では通常嗅上皮しか存在しませんが、魚類の中で四足動物に最も近縁とされる肺魚では(図2)、ひだ状の嗅上皮(ラメラ嗅上皮)と、原始的な鋤鼻器と考えられる陥凹部上皮が認められます。肺魚の2型鋤鼻受容体(vomeronasal receptor type 2:V2R)遺伝子は、ラメラ嗅上皮にしか発現しないもの、陥凹部上皮にしか発現しないもの、そしてラメラ嗅上皮と陥凹部上皮の両方に発現するものの3つのタイプに分類されます。
本研究では、個体の成長に伴う発現変化を調べるため、肺魚Protopterus annectensにおけるV2Rの発現様式を様々なサイズの個体間で比較しました。その結果、小さな個体でラメラ嗅上皮にしか発現が認められないV2Rは、大きな個体においてもラメラ嗅上皮にしか発現しておらず、小さな個体で陥凹部上皮にしか発現が認められないV2Rも、大きな個体において陥凹部上皮特異的な発現を維持していました。一方、小さな個体でラメラ嗅上皮と陥凹部上皮の両方に発現しているV2Rのうち、一部は大きな個体においても両組織での発現を維持していましたが、残りは大きな個体では陥凹部上皮のみに発現していました。中間サイズの個体では、小さな個体と大きな個体の中間的な発現様式が認められました(図3)。
これらの結果から、幼若な時期にはラメラ嗅上皮と陥凹部上皮の両方に発現しているV2R遺伝子の一部が、成長に伴ってラメラ嗅上皮での発現を失い、陥凹部上皮特異的な発現へと変化することが示唆されました。また、ラメラ嗅上皮と陥凹部上皮の機能的な分化は幼若個体では完全ではなく、成長に伴ってより明瞭になる可能性が示されました。これらの知見は、脊椎動物における二重嗅覚系の成立過程を理解する上で重要な手がかりになると期待されます。すなわち、肺魚と四足動物の共通祖先では嗅上皮と鋤鼻器の機能分化が十分ではなく、その後の進化の過程で四足動物では両者の機能が明確に分化した可能性を示唆しています。
【掲載論文】
題目:Shifts in type 2 vomeronasal receptor expression during postnatal development in the lungfish olfactory organ(肺魚嗅覚器の生後発達過程における2型鋤鼻受容体発現の変化)
著者:Shoko Nakamuta (中牟田祥子・岩手大学獣医学部 特任研究員), Zicong Zhang (張 子聡・京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点), Masato Nikaido (二階堂雅人・東京科学大学生命理工学院), Takuya Yokoyama (横山拓矢・岩手大学獣医学部), Yoshio Yamamoto (山本欣郎・岩手大学学長), Nobuaki Nakamuta (中牟田信明・岩手大学獣医学部・責任著者)
誌名:Journal of Anatomy
公表日:2026年3月8日
リンク:https://doi.org/10.1111/joa.70129
本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました。
・文部科学省科学研究費補助金・基盤研究(C)「ハイギョの原始的鋤鼻器における2型鋤鼻受容体および発生関連遺伝子の発現解析」研究代表者:中牟田 祥子