
獣医学部
宮崎珠子
産業動物臨床学 動物介在学
岩手大学獣医学部附属動物病院産業動物診療科は、右眼に何らかの眼疾患の既往と考えられる強い角膜白濁を有する馬について、障害物の回避行動による視力検査と眼部超音波検査を組み合わせることで、視力喪失を診断し、症例として報告しました。
本症例は、本学馬術部に所属していた15歳のサラブレッド種で、入厩前から右眼角膜が白濁していました。馬術競技を行う上で右眼の視力を確認する必要があったため、視力を評価する障害物を用いた行動試験と、眼球内部を評価する超音波検査を実施しました。その結果、右眼だけでは障害物を回避できず、超音波検査で水晶体脱位と網膜肥厚を確認し、右眼の視力喪失を診断しました。
本成果により、特殊な眼科検査機器がなくても馬の行動観察により視力を評価できる可能性が示され、乗用馬の安全管理や競技適性の判断に役立つことが期待されます。
馬では様々な眼疾患の後遺症として修復後の角膜に白濁が残ってしまうことがあります。この状態では眼球内部の構造変化を外から観察することが難しく、眼疾患既往馬の現在の視力の有無の正確な判断に窮することも珍しくありません。馬術競技馬において、特に障害物を飛び越える飛越競技では、障害物の高さと距離を正確に認識するために、両眼の視力が求められます。すなわち、競技馬の視力を適切に評価することは馬と騎乗者双方の安全に直結します。
右眼疾患の既往を示す角膜白濁を有する15歳のサラブレッド種の去勢馬に対して、健常な左眼を覆った状態で障害物を回避できるかを確認する障害物回避試験を実施しました。また、超音波検査によって眼球内部の水晶体と網膜の状態を確認しました。
症例馬は、両眼では障害物を回避できましたが、左眼を覆い右眼だけの状態では障害物に衝突し、右眼の視力が喪失していることが強く示唆されました。また、超音波検査では右眼の水晶体脱位と網膜の肥厚が認められ、視力の喪失が裏付けられました。本報告では、外部から眼の観察を主体とする眼科検査だけでは診断が難しい症例に対し、障害物回避試験と眼球内部の超音波検査を組み合わせた診断アプローチの有用性を示しました。
本研究で用いた視力検査は、特殊な設備がない臨床現場でも実施が可能なことから、今後はさまざまな馬の眼疾患への応用を試みることで、馬の視力検査の標準化や、乗用馬の安全管理への活用が期待されます。
【掲載論文】
題目:Unilateral vision loss associated with corneal opacity and posterior lens luxation in the right eye of a Thoroughbred gelding: Case report
著者:S. Imai, R. Sato, R. Fujiwara, S. Terui, A. Kimura, T. Ichijo, Y. Kasashima, T. Miyazaki
誌名:Journal of Equine Veterinary Science
公表日:2026年2月21日