牛の被毛を検体とするフリーマーチン検査法を開発

掲載日2026.10.22
最新研究

獣医学部
髙橋 透
獣医繁殖学

岩手大学獣医学部6年生の濱野斗真(2026年3月卒)、金澤朋美助教、髙橋透教授らの研究グループは、牛の被毛を検体とするフリーマーチン検査法を開発しました。異性双子で生まれた雌牛の大半は繁殖能力がなく、フリーマーチンと呼ばれます。しかし一部の牛は正常な繁殖能力を有しており、これを早期に判定することが求められます。フリーマーチンの診断は、血液を検体として用いる染色体分析やPCR法で行われていますが、獣医師による採血が必要で、血液を冷蔵で輸送しなければなりませんでした。研究グループは、誰でも簡単に採取できて、常温輸送が可能な被毛を検体としたフリーマーチン検査法を開発しました。


研究成果のポイント

  • 血液の代わりに被毛を用いるフリーマーチン検査法を開発した。
  • 毛根部だけでなく、毛幹部から抽出したDNAを用いてもポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査が可能である。
  • 被毛検体は定型封筒による常温郵送が可能である。

背景

牛の異性双子の雌は繁殖能力がない場合が多く、これはフリーマーチンと呼ばれます。しかし、異性双子の雌の数%は正常な繁殖能力を有しており、これを早期に見極めることは酪農経営においてとても重要なことになります。これまでフリーマーチンの診断には、染色体検査やPCR検査が行われてきましたが、どちらの検査法も獣医師による採血と血液の冷蔵輸送が必要であり、検査検体の準備に手間とコストがかかるという難点がありました。

研究内容

研究グループは被毛からDNAを抽出してPCRを行い、Y染色体に特異的なDNA塩基配列を増幅しました。フリーマーチン個体は末梢血中の白血球がXX/XYキメラ核型を呈することが知られていますので、通常は異性双子の雌の血液からDNAを抽出してPCRを行なった時にY染色体特異的なDNA塩基配列が増幅されれば、XX/XYキメラ即ちフリーマーチンが疑われます。しかしフリーマーチン個体は白血球以外の細胞もXX/XYキメラになっており、どうやら被毛の細胞もXX/XYキメラになっているようなのです。
被毛は、根元の毛根と毛先の毛幹に分けられます。毛根の細胞は生きている細胞ですが、毛幹の細胞は角化して細胞核のDNAは高度に断片化してしまっています。もしかしたら毛を毟った際にごく微量の血液が毛根に付着しているかもしれず、その血液の細胞に由来するDNAからPCR産物が増幅されてくる可能性も否定できません。そこで研究グループは、被毛を半分に切って根元側と毛先側に分け、それぞれからDNAを抽出してPCRを行なったところ、どちらのサンプルからも目的の配列が増幅されました。また、「毛幹部から抽出したズタズタのDNAを用いて本当にPCRができるの?」という疑問もありますが、研究グループがターゲットにした配列はY染色体特異配列が199塩基対、X染色体特異配列が365塩基対と比較的短い配列だったために、PCRが可能だったものと思われます。

研究成果

実際に異性双子の雌個体6頭について、染色体検査、血液のPCR検査、被毛のPCR検査を行なったところ、全ての個体で3つの検査法の結果が完全に一致しました。検体採取は簡単で、牛の背部をブラッシングして埃や抜け毛を除いた後に被毛を手で毟ります。この時に、ブラシに絡まっている他の牛の被毛が混入しないように注意してください。本数は100本程度あれば十分ですが、厳密に数える必要はありません。これを小さなポリ袋に入れてから定型郵便の封筒に入れ、¥110の切手を貼って送るだけです。

掲載論文

題目:Detection of sex chromosome-specific DNA sequences by polymerase chain reaction using hair DNA in cattle.
著者:Hamano T, Kanazawa T, Takahashi T.
誌名:J.Reprod.Dev.;72(4):715-718.
公表日:2026 Aug.1

用語解説
  • フリーマーチン
    牛の異性双子の雌個体はそのほとんど(約93%)が不妊である。これをフリーマーチンと言い、この現象は古代ローマ時代から知られていた。
  • ポリメラーゼ連鎖反応
    DNAの特定の配列を、短時間のうちに数百万倍以上に増幅させる技術。
  • キメラ
    1つの個体の中に遺伝情報や由来が異なる細胞が混在している状態
本件に関する問い合わせ先
獣医学部共同獣医学科  髙橋 透
019-621-6277
tatoru@iwate-u.ac.jp