
獣医学部・獣医学研究科
村上 賢二(責任著者)、新井偉典(筆頭著者)、上原さき(筆頭著者)
ウイルス学、動物感染症学
岩手大学獣医学部・獣医学研究科の村上賢二教授、新井偉典大学院生らの研究グループは、牛伝染性リンパ腫ウイルスの感染伝播リスクが高い「高プロウイルス量保有牛」を簡便かつ低コストに識別するため、2種類の市販抗体ELISAキットの診断性能を比較評価しました。本成果により、高額な定量PCR(qPCR)検査を全頭に行うことなく、抗体ELISA検査による一次絞り込みと確定qPCR検査を組み合わせた「2段階スクリーニング戦略」が可能となり、大規模農場における牛白血病清浄化の低コスト化と効率化が見込まれます。
牛伝染性リンパ腫は日本の畜産現場における重大な課題であり、特に原因ウイルスである牛伝染性リンパ腫ウイルス (BLV) の感染ウイルス遺伝子量(PVL)が高い「高PVL保有牛」が他牛への感染拡大の主な原因となります。BLVの感染伝播を抑制するためには、感染率が高い農場では全頭淘汰が不可能なため、高PVL牛を選択的に隔離・淘汰する対策が有効ですが、確実なPVL測定に必要な定量PCR(qPCR)検査はコストが高く、多頭数の農場で実施するには限界がありました。そのため、処理能力が高く比較的低コストの抗体検出ELISAを活用し、間接的に高PVL牛をスクリーニングする手法の確立が求められていました。
東北および北海道の17農場から集めた牛155頭の血液・血清サンプルを使用し、現在利用可能な2種類の市販抗体ELISAキット(「EBL ELISA[ニッポンジーン]」および「Leukosis Serum X2[Idexx]」)の高PVL牛識別性能を比較・評価しました。qPCR検査により測定したPVL値(≥400 copies/10 ng DNAを高PVLと定義)を判定基準とし、両キット間の一致性(κ値)、相関(r値)、およびROC解析を用いた感度・特異度を算出・検証しました。
両ELISAキットは高い診断一致性(κ=0.97)および相関(r=0.617)を示しました。ROC解析の結果、Leukosis Serum X2キット(AUC 0.840、感度89.7%、特異度66.4%)は、EBL ELISAキット(AUC 0.785、感度84.6%、特異度56.9%)よりも高PVL牛の識別能力において優れていることが明らかになりました。この性能差は、Leukosis Serum X2がエンベロープタンパク質(gp51)だけでなくカプシドタンパク質(p24)を含む培養上清を抗原に使用しているため、ウイルス量との相関が高い抗体を効果的に検出できたことに起因すると考察されます。
本研究で用いた抗体検出ELISAは抗体量を調べるものでありPVLを直接測定するものではないため、qPCRを完全代替することはできませんが、まずELISA検査で高PVLが疑われる個体を抽出し、続いてqPCR検査で確定診断を行う「2段階スクリーニング(2-step screening)」を行うことで、検査コストと労力を大幅に抑えつつ高リスク牛の優先的な分離・淘汰を進めることができます。本手法を多くの農場で実証・導入することにより、牛伝染性リンパ腫清浄化対策を加速させることが期待されます。
題目:Comparison of 2 commercial antibody ELISA kits for identification of high proviral load carrier cattle in strategic control of bovine leukemia virus infection
著者:Arai, T., Uehara, S., Kondo, S., Yamamoto, T., Kanazawa, T., Yamamoto-Kinami, A., Matsuda, K., Matsuzaki, T., Yamada, S., Hikono, H., Murakami, K.
誌名:Journal of Veterinary Diagnostic Investigation
公表日:2026年 (DOI: 10.1177/1040638726146243)
本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました。
・日本中央競馬会(JRA)畜産振興事業「2022-23」研究代表者:村上賢二
・文部科学省科学研究費補助金・基盤研究(C)「25K09433」研究代表者:村上賢二