
ハシボソガラスとハシブトガラスは、外見上は似ているものの、実はその生態はかなり異なることがわかってきています。また、縄張りをもつ繁殖個体と移動性の高い非繁殖個体でもその生態が異なり、農作物被害や生活環境被害の多くには、非繁殖個体が関与している可能性が指摘されています。しかし、津軽地域において2種の非繁殖個体が一年を通してどんな餌を利用しているか等の生態は十分に解明されていませんでした。岩手大学大学院連合農学研究科博士課程(弘前大学配属)の熊倉優太さん、弘前大学農学生命科学部のムラノ千恵助教、東信行教授は、2020~2021年にGPS追跡と直接観察を組み合わせ、カラス2種の非繁殖個体の利用環境と餌資源を通年調査しました。その結果、春から秋はハシボソガラスが水田、ハシブトガラスは畜産施設や山林と、異なる環境や餌を利用していた一方、積雪期には両種が放置果実などの人為的餌資源を集中的に利用することが明らかになりました。この研究成果は、2026年5月29日に、国際誌「Ecological Research」誌に掲載されました。
日本に生息するハシボソガラスとハシブトガラス(図1)は、農作物被害や生活環境被害を引き起こすため、野生動物管理の重要な対象です。しかし、これまで対策を行う際には両種を「カラス」として一括りに扱うことが多く、種ごとの生態の違いは考慮されてきませんでした。その上、群れを形成して地域内の広範囲を移動する非繁殖個体については調査が難しく、1年を通じた行動や資源利用の実態がよく分かっていませんでした。
本研究では、青森県津軽地方にて、GPS発信機による行動追跡と直接的な採食観察を組み合わせた調査を実施し、季節の変化や積雪環境に応じて、2種のカラスがどのように利用環境や餌資源の利用を変化させるのかを通年で調査しました。その結果、ハシボソガラスは主に農耕地で落穂や無脊椎動物を利用し、ハシブトガラスは畜産施設の飼料や山林の果実を利用するなど、両種は異なる資源利用戦略を持つことがわかりました(図2)。2種が、季節によってそれぞれ異なる形で人為的資源に依存する様子を具体的に明らかにしたのが本研究の成果です。また、調査期間を通じて家庭ゴミの利用は確認されず、地域で実施されている防鳥対策が一定の効果を発揮していることや、非繁殖個体が市街地よりも郊外環境の資源に依存している可能性が示唆されました。この知見は、種間差や繁殖状態の違いを考慮した、より効果的なカラス管理手法の構築につながることが期待されます。
本研究において、2種が共に、積雪期に放置されたリンゴやカキなどの限られた資源へ利用を集中させ、空間的に収束する動態を示した点は重要な成果です。冬季は餌資源が最も限定的となる季節であり、これらの冬季の餌資源を適切に管理することで地域内の生息個体数の抑制につながることが示唆されました。また、非繁殖個体の観察から、市街地での家庭ゴミの利用がみられないなど、市街地に縄張りを持ち一定のエリアに留まる繁殖個体とは異なる行動特性が明らかとなりました。これは、従来のカラス研究や管理に新たな視点を与えます。今後は他地域との比較や、GPSデータを活用した個体レベルの行動圏解析、さらには1日の時間帯ごとの行動変化の解明を進めることで、より実効性の高い被害管理対策への応用が期待されます。
論文タイトル: Species-Specific Adaptability in Seasonal Resource Use by Non-Breeding Crows: Contrasting Responses to Natural and Anthropogenic Environments
著者:Yuta Kumakura, Chie Murano and Nobuyuki Azuma(熊倉 優太, ムラノ 千恵, 東 信行)
掲載誌: Ecological Research
DOI:https://doi.org/10.1111/1440-1703.70087
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