ネコはマタタビ派?キャットニップ派? ―自由行動下の解析で見えた反応性の違い―

掲載日2026.05.19
最新研究

農学部 生命科学科
教授 宮崎雅雄
分子生体機能学

 日本ではマタタビ、そして欧米ではキャットニップ、どちらも、ネコが体を擦り付けたりする特有の反応を誘起する植物として知られています。では、この二つが同時に存在した場合、ネコはどちらを選ぶでしょうか?
 国立大学法人岩手大学の宮崎雅雄教授、上野山怜子助教、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学の西川俊夫教授らの研究グループは、この疑問に答えるため、ネコが自分の意思で近づくか無視するかを選べる条件下で、マタタビとキャットニップへの反応を比較しました。その結果、いずれの植物もネコに単独で提示すると特有の反応を誘起するにもかかわらず、自由行動下ではマタタビの方がキャットニップよりも高頻度で反応を引き起こすことが分かりました。
 研究グループはまず、野外で育てたキャットニップの近くに新鮮なマタタビの枝葉を置き、自由に行動するネコの行動を観察しました。その結果、複数のネコがマタタビに明瞭な反応を示した一方で、近くに生えているキャットニップや採取したキャットニップの葉には反応しませんでした。同様の傾向は、両植物の抽出物を比較した実験でも確認されました。
 さらに、22頭の欧米や中東に由来する品種を含むイエネコを対象に、普段過ごしている広い室内環境で、マタタビ抽出液とキャットニップ抽出液を同時に提示しました。その結果、より多くのネコがキャットニップ抽出液よりもマタタビ抽出液に反応し、この傾向は特定の地域のネコだけに限られない可能性が示されました。
 原因は、キャットニップに有効成分が少なかったわけではありません。化学分析の結果、キャットニップには、ネコの反応を引き起こす有効成分ネペタラクトンが十分量含まれていました。実験室内で、キャットニップに含まれるネペタラクトンを単独で提示した場合には、ネコは特有の反応を示しました。つまり、今回観察された違いは、単純にキャットニップの成分が少ないからでは説明できません。
 本成果は、ネコと植物の関係を理解するうえで重要な知見であり、実際にネコが近づいて反応することと、活性物質の量や強さは、必ずしも相関しないことを示しています。これは、嗅覚刺激と動物行動の関係に新たな視点を提示するものです。本研究は、嗅覚刺激を利用した動物福祉や行動制御、化学シグナルの生態学的意義を考えるうえでも重要な基盤になると期待されます。本研究成果は、ドイツとイギリスに本拠を置くシュプリンガーネイチャーが出版する化学生態学分野の国際学術誌「Journal of Chemical Ecology」に、令和8年5月12日に電子版で公開されました。

本研究成果のポイント

  • ネコは自由に近づくか無視するかを選べる状況では、キャットニップよりもマタタビに対して、より安定して擦り付け・転がり反応を示すことを明らかにした。
  • キャットニップにはネコの反応を引き起こす有効成分が豊富に含まれており、ケージ内の行動試験では実際に反応を誘導できることを確認した。
  • しかし、自由選択条件ではキャットニップへの反応は低く、におい成分が実験室内で活性を示すことと、動物が実際にそのにおいを選んで行動することは必ずしも一致しないことを示した。
  • キャットニップに反応しにくかった理由はまだ不明だが、生のキャットニップではにおいが強すぎる、あるいは持続的に放出されることで、ネコが行動に移りにくくなる可能性が考えられる。
  • 本研究は、においによる動物行動を評価するには、実験室内の反応性だけでなく、動物が自ら選択できる環境で検証することが重要であることを示し、飼い猫のエンリッチメント素材の改良にもつながる成果である。

【論文情報】
著者: 上野山怜子(岩手大学)、宮崎珠子(岩手大学)、大岡左枝(名古屋大学)、西川俊夫(名古屋大学)、宮崎雅雄(岩手大学)
タイトル: Free-Roaming and Captive Cats Prefer Silver Vine to Catnip for Self-Anointing
雑誌: Journal of Chemical Ecology
出版社: Springer Nature
https://doi.org/10.1007/s10886-026-01717-3

  • 本研究成果の詳細は、以下のプレスリリースをご覧ください。
本件に関する問い合わせ先
岩手大学農学部 教授  宮崎雅雄
019-621-6154
mmasao@iwate-u.ac.jp