人文社会科学部 人間文化課程
准教授 久保田 陽子
仮名書道・毛筆による書体デザイン(商業書道)
書道は、文字や言葉を題材とする芸術です。その為、芸術と実用の両面から人々のコミュニケーションを円滑にし、社会生活を支える役割を果たしてきました。その書道分野の伝統的な作品制作研究を応用して、毛筆による書体デザイン(いわゆる商業書道)の制作研究を行っています。
主に岩手県内の企業とのパッケージデザイン制作の共同研究において、商品名の書体制作に携わっています。2020年度は、八幡平市の(株)ふうせつ花との「豆類等の食品に関するパッケージデザインの研究開発」と、(株)北舘製麺との「麺類等のパッケージデザインに関する研究」において、成果となるパッケージ書体を商品化することができました。
(株)ふうせつ花は、『一世風靡』(ざるおぼろ豆腐)という高付加価値の豆腐を開発しましたが、その背景にある挑戦的な企業努力や製品の品質の高さと希少性、和の食品であること等を表現するために、伝統的な書道技法の格調を取り入れながらも柔軟性や新しさを醸し出す和風の書体を制作しました。この商品は「IWATE FOOD&CRAFT AWARD 2020」で特別賞を受賞しました。地元の企業や生産者の思いに寄り添い、商品価値を高めることで地域貢献する研究の意義を改めて認識した事例です。
(株)北舘製麺は、『挽きたてのざるそば』『のどごしそば』『鶏うどん』『鶏そば』『鶏ラーメン』のパッケージリニューアルを行いました。店頭で手に取りたくなるような親しみやすさに商品名の識別性や視線誘引効果を備え、茹でた麺類の形状を想起させる表現を加味して書体に示しました。現在、この成果を基に実験や分析を行っており、わかったことを別のパッケージデザインに反映させて更に検証を行う予定です。その際には、岩手大学の学生が商品名の書体を制作します。
この研究には、パッケージの全体を統括する人文社会科学部のインダストリアルデザイン研究室の教員や、実験・分析を主導する理工学部の機械コースの教員に加えて、多様な分野の学生が参画しており、互いの知見を積み重ねながら新たな展開を模索しています。
学生にとっては、企業と協働する有意義な機会でもあります。書道研究室の学生は、これまでに培って来た漢字書道と仮名書道の伝統的な作品制作技法を使って、実際に社会に貢献する方法を学ぶことができます。勿論、学生が企業の製品に見合う書体を書くレベルにまで到達するには想像以上の時間と労力を費やしますが、商品化への参画を経て伝統的な作品制作に戻ると、人間的にも書作においても目を見張る成長ぶりを示してくれます。企業との協働による書道の応用研究が、教育面でも効果的であることを実感しています。